62 / 69
野心と陰謀と
1
しおりを挟む
到着したフェルナーン国の城は、旧王都の城の一回り以上は大きかった。
城の前で馬車を降りたイリアは、城の玄関先に一人の男性が立っているのを見つけた。フェルナーン国の王太子、ウィルフレドだった。
ウィルフレドは優雅な足取りで近づいてくると、クラヴィスと握手を交わし、イリアの手の甲に軽いキスを落とした。
「ようこそ、フェルナーンへ。お待ち申し上げていました」
ウィルフレドは微笑みを浮かべたが、彼の弟であるアルベールの笑みとは違い、本心を見せない近寄りがたさを感じさせる笑みだった。
アルベールは長兄に向かって軽く頭を下げると、クラヴィスとイリアに、またあとでと言ってさっさと城の中に入って行った。そのアルベールの様子に、彼の言った「うちの王家はお互いに無関心」という言葉がイリアの脳裏をよぎった。なるほど、兄弟の親密さは微塵も感じられなかった。
城についてからは、どうやらウィルフレドが案内してくれるようだ。イリアはしっかりと白狐ポチを抱きしめて、クラヴィスとともに彼のあとを追った。
城は、一人で歩き回れば迷ってしまうほど広かった。
ウィルフレドは大階段を使って二階に上がり、イリアとクラヴィスの部屋に順番に案内した。イリアとクラヴィスの部屋は旧王都の城と同じでお隣だった。違うことと言えば、お互いの部屋を行き来できる内扉がないことだろう。
「大丈夫、夜は僕がそっちに行くからね」
イリアが怖い夢を見たことを気にしているのか、クラヴィスがこっそりとイリアに耳打ちした。イリアは恥ずかしそうに頬を染め、小さく頷いた。
荷物をおいたイリアたちは、その足でフェルナーン国王に謁見した。謁見室には国王と、二人の女性がいた。国王の隣の椅子に腰を下ろしているのがおそらく王妃だろう。そして、王の斜めうしろに静かに立っている品のいい女性は、彼の妾に当たる人だろうか。フェルナーンは堂々と一夫多妻制を公言してはいないが、国王に王妃以外の妾が複数いることは当たり前の国だった。当代の国王は、王妃と、今は一人の妾である妃がいると聞いているが、過去の歴史を見ても、それは少ない方だった。多い時には何十人という妾を侍らせていたこともあると聞く。
王太子ウィルフレドは王妃が生んだ王子だ。アルベールは王太子と母が違うと言っていたから、おそらく王のうしろに立っている女性が彼の母親だろうか。そう思って見れば、確かにアルベールと似ているところがあった。優しそうな目元などはそっくりだ。
イリアが想像していたよりも、フェルナーンの国王は優しそうだった。彼は目尻に皺を寄せて微笑むと、シェロン国の王太子と婚約者を歓迎した。
「自分の国だと思い、寛ぎなさい。明日にでも歓迎の宴を開こう」
国王はそう言うと、玉座から降りてクラヴィスと固い握手を交わした。
その様子を見て、イリアはこの国がシェロンと友好国であったことを今更ながらに思い出した。そう、前の世界でフェルナーン国王――今のウィルフレド王太子が攻めてくるまで、両国は良好な関係を築いていた。
そして、イリアはこっそりと胸を撫でおろした。不安に思っていたが、大丈夫そうだ。少なくともこの王は、突然クラヴィスに牙を剥いたりしないだろう。
イリアとクラヴィスは、フェルナーン国王への謁見を終えると、用意された部屋へと引き上げた。
城の前で馬車を降りたイリアは、城の玄関先に一人の男性が立っているのを見つけた。フェルナーン国の王太子、ウィルフレドだった。
ウィルフレドは優雅な足取りで近づいてくると、クラヴィスと握手を交わし、イリアの手の甲に軽いキスを落とした。
「ようこそ、フェルナーンへ。お待ち申し上げていました」
ウィルフレドは微笑みを浮かべたが、彼の弟であるアルベールの笑みとは違い、本心を見せない近寄りがたさを感じさせる笑みだった。
アルベールは長兄に向かって軽く頭を下げると、クラヴィスとイリアに、またあとでと言ってさっさと城の中に入って行った。そのアルベールの様子に、彼の言った「うちの王家はお互いに無関心」という言葉がイリアの脳裏をよぎった。なるほど、兄弟の親密さは微塵も感じられなかった。
城についてからは、どうやらウィルフレドが案内してくれるようだ。イリアはしっかりと白狐ポチを抱きしめて、クラヴィスとともに彼のあとを追った。
城は、一人で歩き回れば迷ってしまうほど広かった。
ウィルフレドは大階段を使って二階に上がり、イリアとクラヴィスの部屋に順番に案内した。イリアとクラヴィスの部屋は旧王都の城と同じでお隣だった。違うことと言えば、お互いの部屋を行き来できる内扉がないことだろう。
「大丈夫、夜は僕がそっちに行くからね」
イリアが怖い夢を見たことを気にしているのか、クラヴィスがこっそりとイリアに耳打ちした。イリアは恥ずかしそうに頬を染め、小さく頷いた。
荷物をおいたイリアたちは、その足でフェルナーン国王に謁見した。謁見室には国王と、二人の女性がいた。国王の隣の椅子に腰を下ろしているのがおそらく王妃だろう。そして、王の斜めうしろに静かに立っている品のいい女性は、彼の妾に当たる人だろうか。フェルナーンは堂々と一夫多妻制を公言してはいないが、国王に王妃以外の妾が複数いることは当たり前の国だった。当代の国王は、王妃と、今は一人の妾である妃がいると聞いているが、過去の歴史を見ても、それは少ない方だった。多い時には何十人という妾を侍らせていたこともあると聞く。
王太子ウィルフレドは王妃が生んだ王子だ。アルベールは王太子と母が違うと言っていたから、おそらく王のうしろに立っている女性が彼の母親だろうか。そう思って見れば、確かにアルベールと似ているところがあった。優しそうな目元などはそっくりだ。
イリアが想像していたよりも、フェルナーンの国王は優しそうだった。彼は目尻に皺を寄せて微笑むと、シェロン国の王太子と婚約者を歓迎した。
「自分の国だと思い、寛ぎなさい。明日にでも歓迎の宴を開こう」
国王はそう言うと、玉座から降りてクラヴィスと固い握手を交わした。
その様子を見て、イリアはこの国がシェロンと友好国であったことを今更ながらに思い出した。そう、前の世界でフェルナーン国王――今のウィルフレド王太子が攻めてくるまで、両国は良好な関係を築いていた。
そして、イリアはこっそりと胸を撫でおろした。不安に思っていたが、大丈夫そうだ。少なくともこの王は、突然クラヴィスに牙を剥いたりしないだろう。
イリアとクラヴィスは、フェルナーン国王への謁見を終えると、用意された部屋へと引き上げた。
0
お気に入りに追加
734
あなたにおすすめの小説
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。
紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」
と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。
攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
溺愛されて育った夫が幼馴染と不倫してるのが分かり愛情がなくなる。さらに相手は妊娠したらしい。
window
恋愛
大恋愛の末に結婚したフレディ王太子殿下とジェシカ公爵令嬢だったがフレディ殿下が幼馴染のマリア伯爵令嬢と不倫をしました。結婚1年目で子供はまだいない。
夫婦の愛をつないできた絆には亀裂が生じるがお互いの両親の説得もあり離婚を思いとどまったジェシカ。しかし元の仲の良い夫婦に戻ることはできないと確信している。
そんな時相手のマリア令嬢が妊娠したことが分かり頭を悩ませていた。
魔王伯爵と呪われた宝石~お願いですから、豹変して抱きついてくるのはやめてください~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
婚約者に伯爵家を奪われ、家庭教師として勤めていた子爵家でもとある一件から追い出されたエイジェリンは、エイミーと言う偽名を使って、魔王伯爵や悪魔伯爵とささやかれる難ありなブラッド伯爵家の当主ウィリアムの部屋付きメイドとして再就職した。勤めはじめて三日目の朝、エイジェリンはウィリアムを起こしに部屋に向かう。すると、寝ぼけたウィリアムが突然抱きついてきて、硬直するエイジェリンを「ママ」と呼んで甘えだした!ウィリアムはほどなくして正気に戻ったけれど、唖然とするエイジェリンに彼が語ったことには、どうやら彼の一族は、宝石に宿った魂が体に乗り移ってしまう厄介な体質を持っているらしい。エイジェリンに抱きついたのも、彼が指にはめていたブラックダイヤモンドの指輪の霊のせいだという。
ウィリアムは何とかしてブラックダイヤモンドの霊を成仏させようとしているが、なかなかうまくいかない。ウィリアムの秘密を知ってしまったエイジェリンは、必然的に彼に協力するようになったのだけど――お願いですから「ママ」と呼んで抱きついてくるのはやめてください!
※ヒーローはマザコンではありません。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
叔父一家に家を乗っ取られそうなので、今すぐ結婚したいんです!
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「オーレリア、兄が死んだ今、この家はわしが継ぐべきだ。そうは思わんか?」。家族を馬車の事故で失ったばかりのオーレリアの元に、叔父が来てそうのたまった。この国には女では家を継げない。このままだったら大切な家を奪われてしまう。オーレリアは絶望したが、幼なじみのラルフから結婚すればいいのではないかと言われて思い直す。そうだ、急いで結婚すればいい。そうすれば叔父に家を奪われることもないはずだ。オーレリアは考えた挙げ句、恋愛感情はないけれど昔から優しくしてくれているギルバートに求婚してみようと考える。
一方ラルフはオーレリアに片想い中で…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる