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王太子はお隣さん

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「そこの王子様と、ちょっとした約束をしたのさ」

「約束?」

 イリアは不安そうにクラヴィスを見上げた。彼はにっこりと微笑んだ。

「そう。その約束を守るかわりに、君と僕の部屋をつないでもらったんだ」

 クラヴィスはよしよしとイリアの髪を撫でた。イリアが放心していたのをいいことに、彼はイリアを膝の上に横抱きにして、しっかりと抱きしめていた。

 アマルベルダはクラヴィスにあきれたような視線を向けてから、「わかってるんだろうね」と念を押した。

「約束は約束だよ。何年かかってでも、きっちり果たしてもらうからね」

「もちろんわかっている」

「約束が果たされるまでは、この娘はあんたには返さないからそのつもりで」

「まあ、仕方がないだろうね。まあ部屋がつながっているんだ、それで我慢するさ」

 イリアはびっくりしたが、いつになくクラヴィスが楽しそうなので深く追求しなかった。これはあれだ、男と男の――片方は魔女だが――約束というやつだ。女の自分が口をはさんではいけないのである。

 クラヴィスはイリアを腕の中に閉じ込めて満足そうに、「君のことは、城で預かっていることにしよう」と言った。

「いつまでも離宮で療養していることにもできないからね。王太子妃教育のために城で預かっていることにすれば世間も納得するはずだ。国王と君の御父上は適当に言いくるめておこう。そのかわり、たまには彼らに顔を見せてくれよ?」

 イリアは頷いたが、それを聞いたアマルベルダははんっと鼻で笑った。

「まったく悪知恵の働く王子様だよ。言っておくけどね、あくまでもこの娘はここに住んでいるんだ、この娘の手が空いているときに部屋から連れ出すのは構わないが、きちんと夜には部屋に返すんだね」

「わかっている。僕も、魔女になりたいという彼女の意思は尊重するさ」

 そしてクラヴィスは名残惜しそうにイリアの髪にキスをすると、「さすがにもう戻らないと、予定があるんだった」と言って立ち上がる。

「じゃあ、今日からよろしくね。僕の可愛いイリア」

 クラヴィスが楽しそうな足取りで居間を出て行くと、まだ現実を受け止めきれていないイリアは無言でアマルベルダを見つめた。

 アマルベルダはティーカップに口をつけながら、

「文句は受け付けないよ。ただ一つだけ――、貞操には、充分注意するんだね」
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