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王太子はお隣さん

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「アマルベルダ―――!」

 パニックになったイリアは、突然現れたクラヴィスに背を向けると、大声で魔女アマルベルダを呼びながら部屋を飛び出した。

 ばたばたと廊下を駆け抜け階段を下りて、居間の扉をばたんと開くと、アマルベルダが優雅にお茶を飲んでいるところだった。

「あ、あま、あま、アマルベルダっ」

「うるさいねぇ。あんた一応公爵令嬢だろう? 少しは気品ってものを持ちなさいよ、気品ってものをねぇ?」

「そ、それどころじゃないもの!」

 イリアはぜーぜーと肩で息をしながら魔女に詰め寄った。

「部屋にっ、知らない扉が! 扉が開いたら、開いたらっ」

「あーはいはい。扉は開けるためにあるんだから、開くのは当たり前だろう?」

「違うのっ! そうじゃなくって」

 イリアは混乱していた。彼女はアマルベルダの両肩を掴むと、がくがくと揺さぶった。

「扉、扉が開いたらっ」

「僕がいた?」

「そう! 僕……が?」

 イリアはハッとして振り返った。するとなぜかそこにクラヴィスの姿があって、イリアは口を開けたまま固まった。

 クラヴィスは優雅な足取りでイリアの元まで歩いてくると、べりっとアマルベルダの肩からイリアの手を引きはがした。

「イリア。僕以外の男に気安く触れては駄目だよ。悪い子だね」

 クラヴィスはお仕置きだと言ってイリアの鼻をつまむと、まだ茫然としている彼女の顔を覗き込んだ。

「あれ、まだ固まってる?」

「まあ、そうだろうねぇ」

 アマルベルダはつまらなそうに言って、はっと鼻で笑った。
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