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嫉妬とお仕置きと
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イリアはひっと小さく息を呑んだ。
お仕置き? クラヴィスはお仕置きと言わなかったか?
イリアはあわあわと彼から逃げ出そうと、ベッドの上にずり上がろうとした。しかし、当然逃げられるはずもなく、あっさり両手首をとられると、彼女はクラヴィスの手によってベッドに縫い留められてしまった。
「この期に及んでまだ逃げようと? 悪い子だね、イリア」
クラヴィスは仄暗い笑みを浮かべていた。どうやらイリアは確実に彼の怒りの導火線に火をつけてしまったらしい。何が着火剤なのか――、きっと何もかもだろうが、イリアには鎮火方法が思いつかず、半泣きになりながらクラヴィスを見上げた。
「ほ、本当に、魔女になりたかったの。本当よ」
「誰もそんなくだらないことの真偽なんて問うてないよ。僕が問いたいのは、そんなふざけた理由で、事前の相談もなく勝手に姿を消したことだ。うん? 言い訳する? 僕の納得できる言い訳ができたらお仕置きを軽くしてあげてもいいよ。さあ、どうぞ?」
イリアはひーんと泣きだした。
クラヴィスは普段はとても優しいし、イリアのことをすごく甘やかしてくれるが、怒らせると本当に怖いのだ。彼に怒られるのが久しぶりすぎて、そのことを今の今まですっかり忘れていたイリアは真っ青になった。
「だって、だって……」
「だって?」
「だって、いっぱい、いっぱい考えたんだもの」
「うん、何を?」
イリアはうっと言葉に詰まった。本当のことを言うわけにはいかないし、イリアが未来から過去に転生してきたと言ったところで信じてはくれないだろう。彼女は困って、もごもごと言った。
「ま、……魔女になる方法……?」
そして、イリアは自分の失言を悟った。ぴしっとクラヴィスの額に青筋が浮かんだからだ。
「わかった、もういい。君にはきっちりわからせる必要があるらしい。うん。そうだな、手始めにどうしてくれようか。子供のころのようにおしりを叩いてあげてもいいけど、それじゃあ生ぬるいかな、ねえ?」
イリアはいやいやと首を振った。
(狐さーん、狐さぁーんっ)
イリアは心の中で必死にポチを呼んだが、すぐ隣でこんな緊迫したやり取りをしているというのに、彼は目を開ける気配もない。
クラヴィスはぎしっとベッドに体重をかけると、至近距離でイリアの顔を覗き込んだ。
「それとも、魔女ごっこはやめて帰ってくる? それなら許してあげてもいい」
イリアは一瞬、うんと頷きたくなった。イリアだってクラヴィスのそばにいたいのだ。でも、頷く直前に脳裏をよぎった未来の凄惨な光景に、彼女は思いとどまった。
だから彼女は、ぷいつと顔を背けて、小声で答えた。
「魔女ごっこじゃ、ないもの……」
「なるほど、君はあくまでもその態度を崩さないわけだ」
はあーとイリアの頭上から大きなため息が聞こえてきて、ちらりと横目でクラヴィスを見やった彼女は、彼が満面の笑顔を浮かべるのを見た。
「もういいよ。じゃあ、僕は僕の思う通りにするだけだ。――帰る気に、させてあげよう」
そう言って、クラヴィスは身をかがめると、イリアの首筋に強く吸い付いた。
お仕置き? クラヴィスはお仕置きと言わなかったか?
イリアはあわあわと彼から逃げ出そうと、ベッドの上にずり上がろうとした。しかし、当然逃げられるはずもなく、あっさり両手首をとられると、彼女はクラヴィスの手によってベッドに縫い留められてしまった。
「この期に及んでまだ逃げようと? 悪い子だね、イリア」
クラヴィスは仄暗い笑みを浮かべていた。どうやらイリアは確実に彼の怒りの導火線に火をつけてしまったらしい。何が着火剤なのか――、きっと何もかもだろうが、イリアには鎮火方法が思いつかず、半泣きになりながらクラヴィスを見上げた。
「ほ、本当に、魔女になりたかったの。本当よ」
「誰もそんなくだらないことの真偽なんて問うてないよ。僕が問いたいのは、そんなふざけた理由で、事前の相談もなく勝手に姿を消したことだ。うん? 言い訳する? 僕の納得できる言い訳ができたらお仕置きを軽くしてあげてもいいよ。さあ、どうぞ?」
イリアはひーんと泣きだした。
クラヴィスは普段はとても優しいし、イリアのことをすごく甘やかしてくれるが、怒らせると本当に怖いのだ。彼に怒られるのが久しぶりすぎて、そのことを今の今まですっかり忘れていたイリアは真っ青になった。
「だって、だって……」
「だって?」
「だって、いっぱい、いっぱい考えたんだもの」
「うん、何を?」
イリアはうっと言葉に詰まった。本当のことを言うわけにはいかないし、イリアが未来から過去に転生してきたと言ったところで信じてはくれないだろう。彼女は困って、もごもごと言った。
「ま、……魔女になる方法……?」
そして、イリアは自分の失言を悟った。ぴしっとクラヴィスの額に青筋が浮かんだからだ。
「わかった、もういい。君にはきっちりわからせる必要があるらしい。うん。そうだな、手始めにどうしてくれようか。子供のころのようにおしりを叩いてあげてもいいけど、それじゃあ生ぬるいかな、ねえ?」
イリアはいやいやと首を振った。
(狐さーん、狐さぁーんっ)
イリアは心の中で必死にポチを呼んだが、すぐ隣でこんな緊迫したやり取りをしているというのに、彼は目を開ける気配もない。
クラヴィスはぎしっとベッドに体重をかけると、至近距離でイリアの顔を覗き込んだ。
「それとも、魔女ごっこはやめて帰ってくる? それなら許してあげてもいい」
イリアは一瞬、うんと頷きたくなった。イリアだってクラヴィスのそばにいたいのだ。でも、頷く直前に脳裏をよぎった未来の凄惨な光景に、彼女は思いとどまった。
だから彼女は、ぷいつと顔を背けて、小声で答えた。
「魔女ごっこじゃ、ないもの……」
「なるほど、君はあくまでもその態度を崩さないわけだ」
はあーとイリアの頭上から大きなため息が聞こえてきて、ちらりと横目でクラヴィスを見やった彼女は、彼が満面の笑顔を浮かべるのを見た。
「もういいよ。じゃあ、僕は僕の思う通りにするだけだ。――帰る気に、させてあげよう」
そう言って、クラヴィスは身をかがめると、イリアの首筋に強く吸い付いた。
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