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魔女は魔女でも、男です
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イリアが目を覚ますと、そこは彼女がアマルベルダに与えられた部屋のベッドの上だった。
首を巡らせると、彼女の隣には白狐ポチが丸くなって眠っていた。
(あれ、わたし、生きてる……?)
喉がヒリヒリと痛いし、なんだか頭もガンガンするが、生きている。
でも、どうしてだろう。煙で充満していたキッチンで意識を失ったはずだった。オーブンも燃えていたし、その火がキッチンを覆うのも時間の問題かに思えたのに。
イリアがはっきりしない頭で考えていると、突然、視界にぬっと人影が現れた。そして。
「こんのぉ―――、バカ娘―――!」
怒鳴られた。
イリアはビクッとして彼女を怒鳴り散らした人物を見た。アマルベルダが怒りの形相でイリアを睨みつけていた。
「あんたは! 留守番もまともにできないのかい! あたしが戻ってくるのがあと一歩遅れたら、あんたは危なかったかもしれないんだよ!」
イリアは目をぱちくりさせた。つまり、イリアを助けてくれたのはアマルベルダのようだ。
「家に帰ったらポチが慌てて飛んできて裾を引っ張るから何事かと思えば、まったく! 火もろくに起こせないのに、何だってオーブンを使おうと思ったんだい! しかも、薪を入れるなんて……。薪を入れるように作られていないんだから、あんなものを入れて火をつければ爆発するに決まってるだろう!」
なるほど、だから爆発したのか。イリアは合点して、しょんぼりとうなだれた。
「ごめんなさい。クッキーを焼こうと思ったの……」
「焼くのは勝手だけど、あたしがいるときにしな!」
「はい……」
イリアは心から反省した。アマルベルダに大変な迷惑をかけてしまった。キッチンも壊してしまつたし、謝っても許されないかもしれない。
(出て行けって言われたら、どうしよう……)
ここを追い出されてはイリアに行くところはない。まだ魔女にだってなれていないのだ。イリアがビクビクしていると、はーっと息を吐きだしたアマルベルダがベッドの淵に腰を下ろして、横になったままのイリアの頭を撫でた。
「まったく、気を失ったくらいですんでよかったよ。心配かけるんじゃないよ」
「あの、……出て行けって、言わないんですか?」
「なんだい、出て行きたいのかい?」
イリアはぶんぶんと首を横に振った。
アマルベルダは笑って、彼女の額を小突いた。
「あたしは一度面倒を見ると言った娘をこんなことで追い出したりなんかしないよ。だけど、あんたは今度から、あたしがいないときに一人でキッチンに入ることは禁止だよ。いいね?」
イリアがこくんと頷くと、アマルベルダは褒めるようにもう一度頭を撫でて、立ち上がった。――しかし。
「なるほど、こんなところにいたのか」
突然聞こえてきた声に、イリアは飛び上がるかと思った。
チッというアマルベルダの舌打ちも聞こえてくる。
(まさか――)
イリアはそんなまさかと思いながら、恐る恐る声のする部屋の入口へ顔を向けた。
そこには、王太子クラヴィスが腕を組んで立つていた――
首を巡らせると、彼女の隣には白狐ポチが丸くなって眠っていた。
(あれ、わたし、生きてる……?)
喉がヒリヒリと痛いし、なんだか頭もガンガンするが、生きている。
でも、どうしてだろう。煙で充満していたキッチンで意識を失ったはずだった。オーブンも燃えていたし、その火がキッチンを覆うのも時間の問題かに思えたのに。
イリアがはっきりしない頭で考えていると、突然、視界にぬっと人影が現れた。そして。
「こんのぉ―――、バカ娘―――!」
怒鳴られた。
イリアはビクッとして彼女を怒鳴り散らした人物を見た。アマルベルダが怒りの形相でイリアを睨みつけていた。
「あんたは! 留守番もまともにできないのかい! あたしが戻ってくるのがあと一歩遅れたら、あんたは危なかったかもしれないんだよ!」
イリアは目をぱちくりさせた。つまり、イリアを助けてくれたのはアマルベルダのようだ。
「家に帰ったらポチが慌てて飛んできて裾を引っ張るから何事かと思えば、まったく! 火もろくに起こせないのに、何だってオーブンを使おうと思ったんだい! しかも、薪を入れるなんて……。薪を入れるように作られていないんだから、あんなものを入れて火をつければ爆発するに決まってるだろう!」
なるほど、だから爆発したのか。イリアは合点して、しょんぼりとうなだれた。
「ごめんなさい。クッキーを焼こうと思ったの……」
「焼くのは勝手だけど、あたしがいるときにしな!」
「はい……」
イリアは心から反省した。アマルベルダに大変な迷惑をかけてしまった。キッチンも壊してしまつたし、謝っても許されないかもしれない。
(出て行けって言われたら、どうしよう……)
ここを追い出されてはイリアに行くところはない。まだ魔女にだってなれていないのだ。イリアがビクビクしていると、はーっと息を吐きだしたアマルベルダがベッドの淵に腰を下ろして、横になったままのイリアの頭を撫でた。
「まったく、気を失ったくらいですんでよかったよ。心配かけるんじゃないよ」
「あの、……出て行けって、言わないんですか?」
「なんだい、出て行きたいのかい?」
イリアはぶんぶんと首を横に振った。
アマルベルダは笑って、彼女の額を小突いた。
「あたしは一度面倒を見ると言った娘をこんなことで追い出したりなんかしないよ。だけど、あんたは今度から、あたしがいないときに一人でキッチンに入ることは禁止だよ。いいね?」
イリアがこくんと頷くと、アマルベルダは褒めるようにもう一度頭を撫でて、立ち上がった。――しかし。
「なるほど、こんなところにいたのか」
突然聞こえてきた声に、イリアは飛び上がるかと思った。
チッというアマルベルダの舌打ちも聞こえてくる。
(まさか――)
イリアはそんなまさかと思いながら、恐る恐る声のする部屋の入口へ顔を向けた。
そこには、王太子クラヴィスが腕を組んで立つていた――
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