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弟子にしてほしいんですが、だめですか?

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「弟子だってぇ?」

 アマルベルダは素っ頓狂な声をあげた。

 その声にイリアの膝の上で丸くなっていた白狐ポチはびっくりしたように飛び起きた。

 イリアはいたって真面目な表情で「はい!」と元気よく返事をした。

「わたし、魔女になりたいんです。だからお願いします!」

「お願いしますって、あんたねぇ……」

 がばっと頭を下げるイリアに、アマルベルダは片手で額をおさえた。

「だいたい何で魔女なんだい。わざわざ魔女を選ばなくとも、他にもなにかあるだろう」

「それは……、他も試しましたが向いていなかったというか……」

「例えば?」

 イリアは昔を思い出すように目を閉じ、それからなぜか自信満々に答えた。

「最初は、最強の剣士になろうとしたんです」

「――は? その細腕で?」

「はい。小さい頃からがんばればなれるかもしれないと思ったんですけど、だめでした。危ないって周りにとめられて、練習用に振り回していた木の枝も取り上げられちゃって……」

「ま、そりゃそうだろうねぇ」

「剣がだめなら弓ではどうかと思ったんですけど、ボール遊びにしなさいと怒られて……」

「………」

「仕方ないのでスパイになろうと思って隠れる練習をしていたら、かくれんぼがしたいのかと勘違いされてしまって、結局うまくいかず――」

 他にもスパイになる訓練で泳ぎの練習をしようと城の池に飛び込み危うく溺れかれた過去があるのだが、イリアはそれは言わなかった。あの時、溺れそうなイリアを助けてくれたのはクラヴィスだが、激怒した彼にお尻を叩かれて叱られたなんて知られたら、恥ずかしすぎる。

「スパイになりたくて隠れる練習をする意味がわからないんだけど――、ああ、いい! 説明しなくていいよ。頭が痛くなりそうだからね」

 アマルベルダが疲れたようにこめかみのあたりを揉んでいると、イリアは心配そうな顔をした。

「頭が痛いんですか? 大丈夫ですか? 横になります?」

「―――」

 アマルベルダは今度は盛大なため息をついた。先ほどから冗談にしか聞こえないようなことばかり宣っているこの娘は、しかし至極生真面目な表情を浮かべているのだ。なんなんだろう、この 娘――、アマルベルダが扱いに困っていると、イリアは再び深く頭を下げた。

「もちろん、何でもします! 掃除だって洗濯だって料理だって! あ、あんまりうまくないかもしれないけど、がんばりますから!」

「掃除洗濯料理って……、嫁か!」

「いえ、わたしが心に決めているのはクラヴィスただ一人なので、たとえ婚約がなかったことになってもあなたの嫁にはなれません。なので、嫁ではなく弟子にしてください」

「………」

 アマルベルダは今度こそ本当に頭痛を覚えたように額をおさえた。

「あたし、弟子は取ってないんだけど……」

「そこを何とかお願いします! クラヴィスを守る力がほしいんです!」

「力って……、魔女って別に、万能じゃないんだけど」

「それでも、今のままのわたしではクラヴィスを守ることなんてできません! きたる日に、隣国の侵略を止めることも、ましてやフェルナーン王――今は王太子ですけど――を殺すこともできません!」

「殺すってあんた、物騒な……」

「もちろん、未来の彼には多大なるうらみはありますが、今の彼にはまだ何の恨みもありません。そうならないことを願いますが――、クラヴィスに何かするのなら容赦しません!」

「あんた、見かけによらずぶっ飛んでるんだねぇ」

「覚悟を決めたんです」

「覚悟?」

「死んでもクラヴィスを守る覚悟です」

 アマルベルダはイリアの顔をまじまじと見つめた。冗談を言っている顔ではない。中途半端な覚悟で来たわけでもない。それがわかるから、魔女は嘆息した。

「……まあ確かに、あの薬が正しく作用したってことは、あんたの覚悟は本物なんだろうよ。だけどねぇ」

 魔女はそう簡単になれるものではない。王族が血を尊ぶように、魔女も血を尊ぶ。それは遺伝的なものではなく、素質的なものだ。素質のないものは、それこそ死ぬまで血反吐ちへどを吐くような訓練をしたって、魔女にはなれない。

「あんたじゃ無理かもしれないよ?」

「やるまえから諦めたくありません」

 アマルベルダはもう一度嘆息した。

「なんて頑固な娘。……まあいいさ、あたしもちょうど退屈していたところだし、ちょっとばかし面倒をみてやろうかねぇ」

 どうなっても責任は取らないけどね――、アマルベルダはそう言って、諦めたように笑った。
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