上 下
36 / 43
裏切り

しおりを挟む
 羽趙蔡うちょうさいは国主邸の門の前に止めていた馬車に乗り込んで、チッと舌打ちした。

「まったく、ふざけおって!」

 戴冠式の間、馬車の中で待たせていた男へ、忌々しそうに吐き捨てる。

 戴冠式を行うと聞いてから今日まで、どうにかしてすいを葬り去ってやろうと画策してきたが、邸の警備が厳重すぎてどうすることもできなかった。

「まったく冗談じゃない。あんな青二才にこの国を渡してたまるか! そうだろう?!」

 同意を求められて、趙蔡の真向かいに座る男は、無言で首肯した。

 男の同意に趙蔡が満足そうに笑ったとき、コンコンと馬車の戸が叩かれる。

 趙蔡はそこにいた男に向かってニヤリと笑うと、

「そう、冗談ではない。この国は私のものだ」

 馬車の外の無表情な男へ、趙蔡は白い包みを差し出した。

 男が無言でそれを受け取って、来た道を引き返していくのを見やりながら、真向かいに座る男へ軽くうなずいて見せた。

 男が馬車から降りると、趙蔡は御者に命じて馬車を出させる。

「愚かな男だ。おとなしく国に帰っていればいいものを―――」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の夫が未亡人に懸想しているので、離婚してあげようと思います

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:39,108pt お気に入り:655

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,400pt お気に入り:3,693

緑の指を持つ娘

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:58,363pt お気に入り:1,494

処理中です...