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戴冠式

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 翆は私室がわりの部屋で茶碗を揺らしながら、大陸から届いた手紙を読んでいた。

 手紙の文字は流麗だが、少し几帳面すぎるきらいがある。

(相変わらずだな、この人は……)


 帰ってこい。

 待っている。

 今どうしている?

 元気か?

 風邪を引いていないか?

 庭に綺麗な花が咲いている。

 お前の好きな茶菓子を取り寄せたぞ――

 用件だけ書いてよこせばいいものを、無駄なことばかり書き連ねてあるからか、手紙はなかなか分厚かった。

 相変わらず心配症で、砂糖菓子のように甘くて優しい、異父兄、しょうからの手紙だった。

 しかし、無駄な内容は多いが、頼んだことはしっかりと調べあげ、それ以上に必要なことも用意してくれるのが異父兄だった。

「もうすぐ終わる。これが終われば、あなたの言うように、帰る―――」

 翆は天井を仰いで、そっと目を閉じた。
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