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「なんだ、お前は行かないのか」

 浅黄色あさぎいろほうに身を包んだすいは、窓際の椅子に座って外を眺めている葉姫ようきに訊ねた。

 葉姫は横目で翆を見やるとつまらなそうに返した。

「かしこまった場所って好きじゃないんだよ。知ってるだろ? それに、確か凌竹柏りょうちくはくって人さ、お前を説得しに来てた使者の中にいたおっちゃんでしょ? あーやだやだ! どんな顔して会えばいいのさ。お前の心臓には毛でも生えてるんじゃないの?」

「お前が茶を浴びせたわけでもなかろうに」

「それでもだ。こういうのは絶対に同類だと思われるんだ。お前のせいで、何もしてない俺の評価もどん底だよ。冷たい視線にさらされるのなんてまっぴらだから、ここでおとなしくしておくよ」

 お前は一人で楽しんで来いよ、と、葉姫は再び窓の外に顔を向ける。

 波打つ栗色の髪が夕日に染まって燃えているようで、まるで一枚の絵画を切り取ったようだった。

 もしここに画家がいたなら、嬉々として筆を走らせそうだ。

「まったく、お前は絵になるな」

「なんだ急に」

 視線を窓外にとどめたまま、葉姫があきれたような声を出した。

「どうせまた、女のようだーとか言うんだろ?」

「私が知るどの女よりも、お前の方がよほど美人だぞ。本気で口説きたくなるほどに」

「はいはい、ありがとうよ。でも、足音がしてるのに気づいていながら、そんな冗談を言うのはいただけないね」

「気づいていたのか」

 笑みを含んだ声で言って、翆は切れ長の目をすっと部屋の入口に向けた。

 中に入りあぐねている初老の使用人が額の汗をぬぐうようなしぐさをしながら腰を折った。

「そろそろお時間でございます」

 使用人の背後から音もなく表れた皓秀が告げた。

 翆は葉姫の頬に手を伸ばして、顔にかかる髪の毛を軽く払ってから、ちらりと背後を見やる。

 何か見てはいけないものを見てしまったように顔をこわばらせている使用人のうしろで、皓秀は顔色一つ変えていなかった。

「老人には刺激が強いか」

 くつくつと喉の奥で笑いながら、「なに人をからかって遊んでるんだ」とあきれ顔の葉姫にひらひらと手を振り、

「じゃあな、退屈な宴に行ってくる」

 退屈でも退屈ではなくしそうな危険な匂いのはらんだ声で言ってから、翆は部屋を出ていく。

 その後ろについて皓秀がいなくなると、困惑顔の使用人に、葉姫は首をすくめて言った。

「悪いね、あいつ、変わってるから」

 どうしようもない奴だけど、悪いく思わないでやってくれ、と。
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