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放蕩王弟帰城する!
それは嫉妬なのですか? 6
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「あらぁ、じゃあお兄様、沙良ちゃんが本当に気に入っちゃったのぉ?」
城の中庭の一角にある温室で、ミリアムは真っ赤なローズヒップティーのカップを片手に、あきれたような声を出した。
「でも、沙良ちゃんはシヴァお兄様のものなのよ?」
「だからだよ」
セリウスはカモミールティーを飲みながら微笑む。
「あの兄上が、あそこまで大事にしている女の子ってほかにいる? ぜひ奪ってみたいなぁ。しかも、天然で鈍くってかわいいじゃないか」
「まあ、確かに沙良ちゃんはとっても鈍くて天然なところがあって、とってもかわいいけど、でも、沙良ちゃんを泣かせたら許さないわよ」
「泣かせなければいいんだろう?」
「あら、すっごい自信」
セリウスはビターチョコレートを口の中に入れて転がしながら、
「ねえミリアム、考えてみなよ。あの堅物で朴念仁で女心なんかちっともわからない兄上の嫁にされてることの方が、沙良ちゃんにとっては不幸だよ」
「……まあ、一理あるわね」
「でしょう? それに、さ。沙良ちゃんと兄上って、実はまだ何にも進展していないよね。夫婦どころか、恋人関係でもないだろう、あれは」
鋭い。
ミリアムはローズヒップティーに蜂蜜を落として、スプーンでくるくるとかき混ぜながら苦笑した。
「そうなのよねぇ。ちょっとは進展しないかしらぁって、いろいろ試してみたんだけど、全くダメだったのよ。禁止令出されちゃって、今、悪戯―――じゃなくて、応援ができないのよねぇ」
「ほら、だから絶対俺のほうがいいって。言っておくけど、俺は優しいしよ」
確かにセリウスは優しいが、その分恐ろしく自分勝手だ。だが、自分勝手なのはシヴァにも言えることなので、ミリアムは曖昧に笑った。
「でも、大事なのは沙良ちゃんの気持ちなのよぉ? わたし、最初はいかがなものかと思ったけど、あれで結構、沙良ちゃん、シヴァお兄様のこと好きなんじゃないかしらって思うのよねぇ」
「俺の方を好きになれば問題ないだろう?」
「ほんと、お兄様って、譲らないわよねぇ……」
何を言ってもダメそうなので、ミリアムはあきらめた。
シヴァには悪いが、ミリアムは沙良が幸せならシヴァでもセリウスでもどっちでもいいと思っている。大事なのは、沙良がいつまでも自分の近くにいることだ。
(結局、シヴァお兄様にしても、セリウスお兄様にしても、面倒なのは一緒だしぃ)
それでも、沙良の気持ちを慮《おもんぱか》っているシヴァの方が、セリウスに比べるとまだましかもしれない。
(しかしまぁ、沙良ちゃんってば、変なのに好かれちゃうわねぇ)
セリウスは昔から気分屋だが、「ほしい」ときっぱり口にしたものに関しては、決して譲らない。いつもへらへらしていて冗談ばかり口にしているから、気づかれることは少ないが、彼が口にする「ほしい」は数少ない彼の本気だった。
だからこそ、シヴァの機嫌も悪いのだ。
「そんなことより、ミリアム、なんでアスヴィルなんかと結婚したんだ。今からでも遅くない、すぐに離婚しなよ」
「やぁよ」
ミリアムはティーカップに口をつけながら艶然と微笑んだ。
「だって、好きになっちゃったんだもの」
ガシャアーン!
温室の入口で派手な音が聞こえて、セリウスは怪訝そうに振り返った。
そこには、なぜか植木鉢を抱えて地面に這いつくばっているアスヴィルと、その後ろに沙良を横抱きにしたシヴァがいた。
アスヴィルはよろよろと立ち上がり、真っ赤に染めた顔でミリアムを見つめた。まるで女神がそこに降臨したかのような表情だ。――魔族だけど。
「ミリアム!!」
アスヴィルは植木鉢を放り出してミリアムに駆け寄ると、ひしっと彼女を抱きしめた。
好きになっちゃったんだもの、というミリアムの発言を、ばっちり聞いていたようだった。
「ミリアム、ミリアム! 愛している! この世の何よりも君が好きだ!」
突然目の前で起こった三文芝居に、セリウスはうんざりした表情になった。
「うわぁ、ミリアム、趣味悪いよ。視力おかしくなっちゃったんじゃないの?」
アスヴィルはミリアムを抱きしめたままキッとセリウスを睨みつけた。
「殿下! 俺とミリアムは愛し合っているんです! これ以上妨害しないでください!」
「俺は認めてないんだけど」
「あなたに認めていただかなくとも結構です!」
「……へえ」
セリウスの声がぐっと低くなる。
「いい度胸だね、アスヴィル……」
セリウスの瞳が、鈍く光った。
城の中庭の一角にある温室で、ミリアムは真っ赤なローズヒップティーのカップを片手に、あきれたような声を出した。
「でも、沙良ちゃんはシヴァお兄様のものなのよ?」
「だからだよ」
セリウスはカモミールティーを飲みながら微笑む。
「あの兄上が、あそこまで大事にしている女の子ってほかにいる? ぜひ奪ってみたいなぁ。しかも、天然で鈍くってかわいいじゃないか」
「まあ、確かに沙良ちゃんはとっても鈍くて天然なところがあって、とってもかわいいけど、でも、沙良ちゃんを泣かせたら許さないわよ」
「泣かせなければいいんだろう?」
「あら、すっごい自信」
セリウスはビターチョコレートを口の中に入れて転がしながら、
「ねえミリアム、考えてみなよ。あの堅物で朴念仁で女心なんかちっともわからない兄上の嫁にされてることの方が、沙良ちゃんにとっては不幸だよ」
「……まあ、一理あるわね」
「でしょう? それに、さ。沙良ちゃんと兄上って、実はまだ何にも進展していないよね。夫婦どころか、恋人関係でもないだろう、あれは」
鋭い。
ミリアムはローズヒップティーに蜂蜜を落として、スプーンでくるくるとかき混ぜながら苦笑した。
「そうなのよねぇ。ちょっとは進展しないかしらぁって、いろいろ試してみたんだけど、全くダメだったのよ。禁止令出されちゃって、今、悪戯―――じゃなくて、応援ができないのよねぇ」
「ほら、だから絶対俺のほうがいいって。言っておくけど、俺は優しいしよ」
確かにセリウスは優しいが、その分恐ろしく自分勝手だ。だが、自分勝手なのはシヴァにも言えることなので、ミリアムは曖昧に笑った。
「でも、大事なのは沙良ちゃんの気持ちなのよぉ? わたし、最初はいかがなものかと思ったけど、あれで結構、沙良ちゃん、シヴァお兄様のこと好きなんじゃないかしらって思うのよねぇ」
「俺の方を好きになれば問題ないだろう?」
「ほんと、お兄様って、譲らないわよねぇ……」
何を言ってもダメそうなので、ミリアムはあきらめた。
シヴァには悪いが、ミリアムは沙良が幸せならシヴァでもセリウスでもどっちでもいいと思っている。大事なのは、沙良がいつまでも自分の近くにいることだ。
(結局、シヴァお兄様にしても、セリウスお兄様にしても、面倒なのは一緒だしぃ)
それでも、沙良の気持ちを慮《おもんぱか》っているシヴァの方が、セリウスに比べるとまだましかもしれない。
(しかしまぁ、沙良ちゃんってば、変なのに好かれちゃうわねぇ)
セリウスは昔から気分屋だが、「ほしい」ときっぱり口にしたものに関しては、決して譲らない。いつもへらへらしていて冗談ばかり口にしているから、気づかれることは少ないが、彼が口にする「ほしい」は数少ない彼の本気だった。
だからこそ、シヴァの機嫌も悪いのだ。
「そんなことより、ミリアム、なんでアスヴィルなんかと結婚したんだ。今からでも遅くない、すぐに離婚しなよ」
「やぁよ」
ミリアムはティーカップに口をつけながら艶然と微笑んだ。
「だって、好きになっちゃったんだもの」
ガシャアーン!
温室の入口で派手な音が聞こえて、セリウスは怪訝そうに振り返った。
そこには、なぜか植木鉢を抱えて地面に這いつくばっているアスヴィルと、その後ろに沙良を横抱きにしたシヴァがいた。
アスヴィルはよろよろと立ち上がり、真っ赤に染めた顔でミリアムを見つめた。まるで女神がそこに降臨したかのような表情だ。――魔族だけど。
「ミリアム!!」
アスヴィルは植木鉢を放り出してミリアムに駆け寄ると、ひしっと彼女を抱きしめた。
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「うわぁ、ミリアム、趣味悪いよ。視力おかしくなっちゃったんじゃないの?」
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「殿下! 俺とミリアムは愛し合っているんです! これ以上妨害しないでください!」
「俺は認めてないんだけど」
「あなたに認めていただかなくとも結構です!」
「……へえ」
セリウスの声がぐっと低くなる。
「いい度胸だね、アスヴィル……」
セリウスの瞳が、鈍く光った。
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