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婚約していないのに婚約破棄された私
帰還とデート 3
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「うちの団長がごめんね……」
オーブリー様がすぐに素材の買い取りの書類を整えてきたので、その場で書類にサインをして、ドーベルニュ公爵に献上する素材以外のものはすべて魔法騎士団の応接室に置いて帰った。
金額が金額なので、お金は後日カンブリーヴ伯爵家に届けられるらしい。
「気にしていませんよ。噂の魔法騎士団長が意外とお茶目で面白かったです」
馬車を手配してくれると言われたのでお言葉に甘えて、わたしはフェヴァン様と馬車に揺られている。
お城からカンブリーヴ伯爵家までは馬車で四十分ほどだ。
「あれを見てお茶目と言えるアドリーヌがすごいよ。団長は普段は静かな人なんだけど、ひとたび火が付くと大変でね。グリフォンの卵が手に入ったから、しばらくはテンションが高いだろうなぁ」
「卵ってどれくらいで孵るんですっけ?」
「十日から二週間だね。保温して、たまに回転させておけば大丈夫だと思うけど……鳥と同じ扱いでいいなら団長が詳しいんじゃないかな? あの人の家、鳥邸だし」
「そうなんですか?」
「うん。鳥小屋がいくつもあるよ。俺は見分けなんてつかないけど、団長は全部に名前を付けて溺愛しているからね。……団長が結婚しないのは、鳥を盲目的に溺愛していて、それ以外に興味が持てないからだってうちの団では噂だよ」
真実は世間の噂と乖離があるものだなとわたしは苦笑する。
フェヴァン様は対面ではなくわたしの隣に座って、ずっと手を繋いでいた。
わたしがお試しのお付き合いに同意したからだろうか、前よりもぐんと距離が近い。おかげで冷静に話しているように見えてわたしの心臓はどきどきだ。
「グリフォンの買取報酬が入ったら、半分ルヴェシウス侯爵邸にお届けしますね」
「どうして? あれはアドリーヌに上げたものだからいらないよ」
「でも、グリフォンを討伐したのはフェヴァン様じゃないですか」
「違うよ、二人でだろう? 一体をアドリーヌが引き付けてくれたから討伐がとても楽だったからね。さすがに二体同時に来られたら手こずったよ」
「二人で討伐したというなら、ちゃんと半分受け取ってくださいよ」
「じゃあ、カンブリーヴ伯爵家への滞在費として、その半分をアドリーヌに進呈するよ」
どうあっても報酬を受け取るつもりはないようだ。
……たった二週間の滞在費が金貨百五十枚なんておかしいわよ!
グリフォンの報酬価格は全部で約金貨三百枚だった。信じられないほどの高額買い取りだ。この前のルヴェシウス侯爵家から支払われた慰謝料を含め金貨四百枚が一気に懐に入った形となる。眩暈がしそうだった。
「時間がかかると思われた素材の買取もすぐに片付いたことだし、アドリーヌ、明日は俺とデートしない?」
「デート⁉」
異性とお付き合いなんてしたことがないわたしは、そのパワーワードにギョッとした。
あわあわしていると、フェヴァン様が不思議そうな顔をする。
「なんでそんなに驚いているの? 付き合っているならデートくらい普通だろう? それとも明日は何か予定があった?」
「よ、予定は、ない、ですけど……」
ドーベルニュ公爵へグリフォンの素材をお届けするのは、王都でのお父様の名代であるお姉様である。こういうのは、当主かその名代がきちんと出向いた方がいい。だからわたしの出番はないわけで、社交性皆無のわたしには出かける予定もないのだけれど……、デート。
「じゃあいいよね?」
「い、いい、ですけど……で、デートって、何をするんですか……?」
「そうだね、最初だし、一緒に町でも歩こうよ。俺のせいで新聞に変なことを書かれたけど、俺と一緒にいたらおかしな噂もすぐに下火になるんじゃないかな? もしかしたらあの記事自体間違いだったって思ってくれるかも」
そんな都合よくいくとは思えないが、噂が収まるまでどこにも行きたくありませんなんて言えば、彼を責めているように聞こえるだろう。
むしろ堂々としていたほうが、あれやこれやと言われないかもしれない。
「わ、わかりました。お買い物ですね」
デートと言う言葉は恥ずかしすぎたので、お買い物、と言い換える。
帰ったらお姉様に異性とお出かけする時は何を着ればいいのか確認しよう。
……その前に、フェヴァン様のことを説明しないと。なんて説明すればいいのかしら……。
オーブリー様がすぐに素材の買い取りの書類を整えてきたので、その場で書類にサインをして、ドーベルニュ公爵に献上する素材以外のものはすべて魔法騎士団の応接室に置いて帰った。
金額が金額なので、お金は後日カンブリーヴ伯爵家に届けられるらしい。
「気にしていませんよ。噂の魔法騎士団長が意外とお茶目で面白かったです」
馬車を手配してくれると言われたのでお言葉に甘えて、わたしはフェヴァン様と馬車に揺られている。
お城からカンブリーヴ伯爵家までは馬車で四十分ほどだ。
「あれを見てお茶目と言えるアドリーヌがすごいよ。団長は普段は静かな人なんだけど、ひとたび火が付くと大変でね。グリフォンの卵が手に入ったから、しばらくはテンションが高いだろうなぁ」
「卵ってどれくらいで孵るんですっけ?」
「十日から二週間だね。保温して、たまに回転させておけば大丈夫だと思うけど……鳥と同じ扱いでいいなら団長が詳しいんじゃないかな? あの人の家、鳥邸だし」
「そうなんですか?」
「うん。鳥小屋がいくつもあるよ。俺は見分けなんてつかないけど、団長は全部に名前を付けて溺愛しているからね。……団長が結婚しないのは、鳥を盲目的に溺愛していて、それ以外に興味が持てないからだってうちの団では噂だよ」
真実は世間の噂と乖離があるものだなとわたしは苦笑する。
フェヴァン様は対面ではなくわたしの隣に座って、ずっと手を繋いでいた。
わたしがお試しのお付き合いに同意したからだろうか、前よりもぐんと距離が近い。おかげで冷静に話しているように見えてわたしの心臓はどきどきだ。
「グリフォンの買取報酬が入ったら、半分ルヴェシウス侯爵邸にお届けしますね」
「どうして? あれはアドリーヌに上げたものだからいらないよ」
「でも、グリフォンを討伐したのはフェヴァン様じゃないですか」
「違うよ、二人でだろう? 一体をアドリーヌが引き付けてくれたから討伐がとても楽だったからね。さすがに二体同時に来られたら手こずったよ」
「二人で討伐したというなら、ちゃんと半分受け取ってくださいよ」
「じゃあ、カンブリーヴ伯爵家への滞在費として、その半分をアドリーヌに進呈するよ」
どうあっても報酬を受け取るつもりはないようだ。
……たった二週間の滞在費が金貨百五十枚なんておかしいわよ!
グリフォンの報酬価格は全部で約金貨三百枚だった。信じられないほどの高額買い取りだ。この前のルヴェシウス侯爵家から支払われた慰謝料を含め金貨四百枚が一気に懐に入った形となる。眩暈がしそうだった。
「時間がかかると思われた素材の買取もすぐに片付いたことだし、アドリーヌ、明日は俺とデートしない?」
「デート⁉」
異性とお付き合いなんてしたことがないわたしは、そのパワーワードにギョッとした。
あわあわしていると、フェヴァン様が不思議そうな顔をする。
「なんでそんなに驚いているの? 付き合っているならデートくらい普通だろう? それとも明日は何か予定があった?」
「よ、予定は、ない、ですけど……」
ドーベルニュ公爵へグリフォンの素材をお届けするのは、王都でのお父様の名代であるお姉様である。こういうのは、当主かその名代がきちんと出向いた方がいい。だからわたしの出番はないわけで、社交性皆無のわたしには出かける予定もないのだけれど……、デート。
「じゃあいいよね?」
「い、いい、ですけど……で、デートって、何をするんですか……?」
「そうだね、最初だし、一緒に町でも歩こうよ。俺のせいで新聞に変なことを書かれたけど、俺と一緒にいたらおかしな噂もすぐに下火になるんじゃないかな? もしかしたらあの記事自体間違いだったって思ってくれるかも」
そんな都合よくいくとは思えないが、噂が収まるまでどこにも行きたくありませんなんて言えば、彼を責めているように聞こえるだろう。
むしろ堂々としていたほうが、あれやこれやと言われないかもしれない。
「わ、わかりました。お買い物ですね」
デートと言う言葉は恥ずかしすぎたので、お買い物、と言い換える。
帰ったらお姉様に異性とお出かけする時は何を着ればいいのか確認しよう。
……その前に、フェヴァン様のことを説明しないと。なんて説明すればいいのかしら……。
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