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婚約していないのに婚約破棄された私
帰還とデート 1
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グリフォン二体の死体を持って帰ると、案の定、使用人のみんなが悲鳴を上げた。
ベイルもあきれ顔で「薬の材料を取りに行くんじゃなかったんですか⁉」と頭を抱えてしまっている。
動物系の魔物は早く解体しないと傷むのだが、さすがに相手がグリフォンともなれば解体も容易ではない。
お父様も魔法薬研究所で魔物の解体経験はあるけれど、グリフォンほどの大物はない。
結果、フェヴァン様が解体を請け負ってくれることになって、お父様はその補佐についた。
わたしも手伝おうと思ったのだけれど、解体はさすがにグロテスクだし、ひるんでいるのがわかったのか、フェヴァン様に止められた。
疲れただろうから休んでいいよと言われて先に就寝させてもらったけれど、翌朝起きたらフェヴァン様たちはまだ庭で解体作業をしていた。貴重な魔物だから素材が無駄にならないように丁寧に解体しているようだ。
「解体するのはいいけど、あのレベルになったらこのあたりで買い取りはしてくれないわよ。王都に持って行かないと。あの人もさすがに素材を全部ほしいなんて言わないでしょうし、必要なものを取ったら売りに行かないともったいないわ。というか、国の研究所が買い取りたいんじゃないかしら~?」
グリフォンなんて、数年に一度、討伐されるかされないかと言うレベルの代物である。研究所が聞けば何が何でも譲ってくれと言い出しそうだ。
「……王都」
「ちょうどいいから、グリフォンの素材を持って王都に帰りなさいな」
「それは……」
「噂がどうとか気にしているけど、フェヴァン様と一緒にいたらそのうち静かになるわよ」
「お母様は、フェヴァン様と婚約してほしいの?」
「それはあなたが決めることだけど、フェヴァン様がどんな方なのか理解してから判断しても遅くないでしょう?」
つまり、もう少しフェヴァン様に向き合えと言いたいのだろう。
ダイニングの窓から、庭で作業しているフェヴァン様とお父様を眺める。
フェヴァン様は、いい方だ。
わたしの気持ちを考えて、まずはお試しからと言ってくれる。
そんなことを言ってくれる男性はきっと他にいないだろう。
だからこそ、一緒にいたら惹かれそうで怖いのだけれど――、彼のことをもう少し知りたいと思うわたしもいた。
「なんでわたしなのかしら……」
「あら、卑屈ねえ。わたしの娘とは思えないわ。もっと自信を持ちなさい」
お母様がわたしの頬をぷにっとつついて笑う。
「あなたは無意識のうちに自分とベアトリスを比較しているみたいだけど、ベアトリスにはベアトリスの、アドリーヌにはアドリーヌのよさがあるのよ」
あの日、わたしに眼鏡をくれた時と同じようなことをお母様が言った。
泣きじゃくるわたしに、お母様は「あなたはあなたの素敵なところがたくさんあるのよ」と言ってくれたのだ。
そして眼鏡を渡して「いつかわたしの言うことがわかる日が来るわ。それまでは、そうね、これでもかけていなさい。少しは落ち着くでしょうから」と困ったように笑ったのだ。
わたしはそっと眼鏡の蔓に触れる。
庭で作業していたフェヴァン様が、わたしとお母様に気づいて小さく手を振ってくれた。
わたしは彼に向かって手を振り返しながら、少しだけ、勇気を出そうと決める。
――その日の夕方、わたしはお試しでお付き合いしますと彼へ返事をした。
ベイルもあきれ顔で「薬の材料を取りに行くんじゃなかったんですか⁉」と頭を抱えてしまっている。
動物系の魔物は早く解体しないと傷むのだが、さすがに相手がグリフォンともなれば解体も容易ではない。
お父様も魔法薬研究所で魔物の解体経験はあるけれど、グリフォンほどの大物はない。
結果、フェヴァン様が解体を請け負ってくれることになって、お父様はその補佐についた。
わたしも手伝おうと思ったのだけれど、解体はさすがにグロテスクだし、ひるんでいるのがわかったのか、フェヴァン様に止められた。
疲れただろうから休んでいいよと言われて先に就寝させてもらったけれど、翌朝起きたらフェヴァン様たちはまだ庭で解体作業をしていた。貴重な魔物だから素材が無駄にならないように丁寧に解体しているようだ。
「解体するのはいいけど、あのレベルになったらこのあたりで買い取りはしてくれないわよ。王都に持って行かないと。あの人もさすがに素材を全部ほしいなんて言わないでしょうし、必要なものを取ったら売りに行かないともったいないわ。というか、国の研究所が買い取りたいんじゃないかしら~?」
グリフォンなんて、数年に一度、討伐されるかされないかと言うレベルの代物である。研究所が聞けば何が何でも譲ってくれと言い出しそうだ。
「……王都」
「ちょうどいいから、グリフォンの素材を持って王都に帰りなさいな」
「それは……」
「噂がどうとか気にしているけど、フェヴァン様と一緒にいたらそのうち静かになるわよ」
「お母様は、フェヴァン様と婚約してほしいの?」
「それはあなたが決めることだけど、フェヴァン様がどんな方なのか理解してから判断しても遅くないでしょう?」
つまり、もう少しフェヴァン様に向き合えと言いたいのだろう。
ダイニングの窓から、庭で作業しているフェヴァン様とお父様を眺める。
フェヴァン様は、いい方だ。
わたしの気持ちを考えて、まずはお試しからと言ってくれる。
そんなことを言ってくれる男性はきっと他にいないだろう。
だからこそ、一緒にいたら惹かれそうで怖いのだけれど――、彼のことをもう少し知りたいと思うわたしもいた。
「なんでわたしなのかしら……」
「あら、卑屈ねえ。わたしの娘とは思えないわ。もっと自信を持ちなさい」
お母様がわたしの頬をぷにっとつついて笑う。
「あなたは無意識のうちに自分とベアトリスを比較しているみたいだけど、ベアトリスにはベアトリスの、アドリーヌにはアドリーヌのよさがあるのよ」
あの日、わたしに眼鏡をくれた時と同じようなことをお母様が言った。
泣きじゃくるわたしに、お母様は「あなたはあなたの素敵なところがたくさんあるのよ」と言ってくれたのだ。
そして眼鏡を渡して「いつかわたしの言うことがわかる日が来るわ。それまでは、そうね、これでもかけていなさい。少しは落ち着くでしょうから」と困ったように笑ったのだ。
わたしはそっと眼鏡の蔓に触れる。
庭で作業していたフェヴァン様が、わたしとお母様に気づいて小さく手を振ってくれた。
わたしは彼に向かって手を振り返しながら、少しだけ、勇気を出そうと決める。
――その日の夕方、わたしはお試しでお付き合いしますと彼へ返事をした。
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