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婚約していないのに婚約破棄された私
魔物討伐 6
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グリフォンは、鷲の頭と獅子の体を持つ上位の魔物である。
国が定める討伐難易度はAランク。
その番ともなれば、騎士だけで討伐するのならば百人規模の隊を導入するレベルの魔物である。
魔術師や魔法騎士を導入しても、最低二十人は必要だろう。
とはいえ、魔術師も魔法騎士も騎士も、個人のレベルが高ければその限りではないのだが。
お母様なら、周囲の被害を考えなければグリフォン一体なら一人で討伐可能だろうか。二体は、多少てこずるかもしれない。
「お父様、結界を張るからそこから出ないでください」
「でも……」
「言いたくありませんが、グリフォンの相手をしながらお父様を守る余裕はありません」
わたしも力の強い魔術師ではあるが、グリフォンと遭遇するのははじめてだ。
どうやら、産卵のためにこの地に飛来したのだろう。
ほかの魔物の気配がなかったのは、産卵を控えて狂暴になっているグリフォンを恐れて息をひそめているからだったのだ。
「これは、討伐しないとまずいね」
「そうですね……」
この森は町から少し離れているとはいえ、ここでグリフォンに産卵されるのは危険だった。
卵が孵った後、グリフォンは子に栄養をつけさせようと狩りをはじめる。そして、魔物よりも簡単に狩れる人が襲われることが多い。町に行けば人は大勢いるのだ。グリフォンにすれば、かっこうの餌場というわけである。
……逆に、このタイミングで発見出来てよかったと考えるべきかしら? でも、この人数で相手をしなければならないと思うと、悪かったと考えるべきかしら?
フェヴァン様の実力はわからない。
国費留学生に選ばれていたし、王太子の側近だ。その力は低くないとは思うけれど、今この場で過信するのは危険だった。
ここにお母様がいれば、わたしとお母様の二人で問題なく討伐で来ただろう。
けれど、わたしが一体のグリフォンと対峙している間、もう一体を押さえる力がフェヴァン様にあるだろうか。
魔法騎士の戦い方を見たことがないわたしには、判断が難しい。
「フェヴァン様、グリフォン討伐の経験は……?」
「ない」
そうだよね。グリフォンなんて上位の魔物に遭遇する機会なんて、滅多にあるものではない。
この地を爆炎に包めば、月歌草がほしいお父様は号泣するだろう。
わたしとしても、森に大きな被害は出したくない。
かといって、そんなことを考えながらグリフォンの討伐が可能だろうか。
……考えている暇はないわね。
どうやらあちらも、わたしたちを敵と認識したようだ。
唸り声がしているから、いつ飛び掛かって来てもおかしくない状況だろう。
「フェヴァン様、無茶を言うようですが、グリフォン一体を頼めますか? もう一体の方はわたしが。終わり次第加勢しますから……」
「心配しなくても大丈夫だよ。グリフォン討伐の経験はないが……」
すらり、とフェヴァン様が腰の剣を抜いた。
瞬間、フェヴァン様の周囲の空気がピンと張った気がした。
……あ、強い。
魔法騎士の実力はわからないが、わたしは直感でそう思った。
どうやらわたしは、かなり失礼なことを考えていたようだ。フェヴァン様の実力を、過小評価しすぎていた。
フェヴァン様が水色の瞳に好戦的な光を宿して、うっそりと笑った。
「ケツァルコアトルの討伐経験ならある」
そう言って、地を蹴ってすごいスピードで駆けだしたフェヴァン様に、わたしはこんな緊迫した場面にもかかわらず、つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「はあ⁉」
国が定める討伐難易度はAランク。
その番ともなれば、騎士だけで討伐するのならば百人規模の隊を導入するレベルの魔物である。
魔術師や魔法騎士を導入しても、最低二十人は必要だろう。
とはいえ、魔術師も魔法騎士も騎士も、個人のレベルが高ければその限りではないのだが。
お母様なら、周囲の被害を考えなければグリフォン一体なら一人で討伐可能だろうか。二体は、多少てこずるかもしれない。
「お父様、結界を張るからそこから出ないでください」
「でも……」
「言いたくありませんが、グリフォンの相手をしながらお父様を守る余裕はありません」
わたしも力の強い魔術師ではあるが、グリフォンと遭遇するのははじめてだ。
どうやら、産卵のためにこの地に飛来したのだろう。
ほかの魔物の気配がなかったのは、産卵を控えて狂暴になっているグリフォンを恐れて息をひそめているからだったのだ。
「これは、討伐しないとまずいね」
「そうですね……」
この森は町から少し離れているとはいえ、ここでグリフォンに産卵されるのは危険だった。
卵が孵った後、グリフォンは子に栄養をつけさせようと狩りをはじめる。そして、魔物よりも簡単に狩れる人が襲われることが多い。町に行けば人は大勢いるのだ。グリフォンにすれば、かっこうの餌場というわけである。
……逆に、このタイミングで発見出来てよかったと考えるべきかしら? でも、この人数で相手をしなければならないと思うと、悪かったと考えるべきかしら?
フェヴァン様の実力はわからない。
国費留学生に選ばれていたし、王太子の側近だ。その力は低くないとは思うけれど、今この場で過信するのは危険だった。
ここにお母様がいれば、わたしとお母様の二人で問題なく討伐で来ただろう。
けれど、わたしが一体のグリフォンと対峙している間、もう一体を押さえる力がフェヴァン様にあるだろうか。
魔法騎士の戦い方を見たことがないわたしには、判断が難しい。
「フェヴァン様、グリフォン討伐の経験は……?」
「ない」
そうだよね。グリフォンなんて上位の魔物に遭遇する機会なんて、滅多にあるものではない。
この地を爆炎に包めば、月歌草がほしいお父様は号泣するだろう。
わたしとしても、森に大きな被害は出したくない。
かといって、そんなことを考えながらグリフォンの討伐が可能だろうか。
……考えている暇はないわね。
どうやらあちらも、わたしたちを敵と認識したようだ。
唸り声がしているから、いつ飛び掛かって来てもおかしくない状況だろう。
「フェヴァン様、無茶を言うようですが、グリフォン一体を頼めますか? もう一体の方はわたしが。終わり次第加勢しますから……」
「心配しなくても大丈夫だよ。グリフォン討伐の経験はないが……」
すらり、とフェヴァン様が腰の剣を抜いた。
瞬間、フェヴァン様の周囲の空気がピンと張った気がした。
……あ、強い。
魔法騎士の実力はわからないが、わたしは直感でそう思った。
どうやらわたしは、かなり失礼なことを考えていたようだ。フェヴァン様の実力を、過小評価しすぎていた。
フェヴァン様が水色の瞳に好戦的な光を宿して、うっそりと笑った。
「ケツァルコアトルの討伐経験ならある」
そう言って、地を蹴ってすごいスピードで駆けだしたフェヴァン様に、わたしはこんな緊迫した場面にもかかわらず、つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「はあ⁉」
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