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婚約していないのに婚約破棄された私
魔物討伐 1
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厄介な男に興味を持たれたものだ。
わたしは、詰襟の魔法騎士の制服に剣を携えたフェヴァン様を見上げてげんなりとした。
その隣には、動きやすい服に身を包んだお父様の姿もある。
「本当に二人だけで行くの?」
お母様が心配そうな顔でお父様を見た。
実は今日、お父様とフェヴァン様の二人だけで、近くの森に魔物討伐に出かけるというのだ。
エターナルローズを大量に手に入れたことから魔法薬研究の熱が上がっているお父様が、魔法薬の研究材料が足りないと言い出したのが事の発端である。
お父様によれば、今研究している薬に、どうやら森に生息している植物型の魔物の素材が必要らしいのだ。
すっかり体調もよくなったお父様は、森に素材を取りに行くと言い出して聞かず、話しを聞きつけたフェヴァン様がお父様の護衛としてついて行くことになったのである。
……外堀が、埋められていく気がする。
この二週間足らずで、お父様とフェヴァン様は、すっかり仲良くなっていた。
フェヴァン様はちょっと頓珍漢な人だけれど、できる男には間違いないのだろう。気づいたときには使用人と家族全員が丸め込まれており、全員がフェヴァン様の味方になっていた。
お父様もお母様も口をそろえて、早く婚約しちゃえばいいのに、なんて言う。
これは危険だ。
お父様が乗り気なので、ルヴェシウス侯爵家から正式な求婚が入れば、あっさり了承してしまうかもしれない。
フェヴァン様は、わたしの気持ちが整うまでは強引なことはしないと言っているけれど、外堀が埋められている時点でわたしにしてみたら充分強引である。
……どんどん断る理由が奪われていく。
責任は必要ないという理由で断ったら、責任とは関係ないと求婚されて、家族も使用人も丸め込まれ……、そして毎日の甘い言葉でわたしの心を揺さぶって来る。
危険だ。
この男は、危険だ。
あの間違った婚約破棄騒動の一件も、あの後、フェヴァン様はお母様とお父様にわたしとの出会いを語る上で全部暴露してしまった。
加えて丁重に謝罪をし、わたしに惚れたと言い出し、お父様とお母様の心を勝ち取った。
お母様がルヴェシウス侯爵家を爆破する危険が消えたのはありがたかったけれど、こういう結果は望んでいない。
お母様なんて「今時珍しいくらいの誠実な方ねえ。わたしが独身で十歳若かったら、絶対に放っておかないわぁ」なんて言っている。勘弁してほしい。
「あなた、一応病み上がりなのよ? わかってる?」
「わかっているよ。でもすっかり元気だし、フェヴァン君が一緒だからね!」
お父様のフェヴァン様への信頼がすごい……。
お母様は何度もお父様とフェヴァン様を見て、うーんと唸っていた。
フェヴァン様は国費留学もしていたし、魔法騎士団にいるエリートでもあるけれど、実力をその目で見ていないから不安がぬぐえないのだろう。
「アドリーヌ、一緒について行ってあげなさいよ。あの森、この時期は魔物たちが活発になるから、森の奥から強い魔物が出てきたら大変だわ」
魔物たちの中には、動物と一緒で冬眠するものもいる。
秋になれば冬眠に向けて栄養を蓄えようと、餌を探して活動範囲が広まるのだ。
「それならお母様が一緒に行けばいいじゃない」
「わたしが行ってもいいけど、魔術の細かいコントロールはあなたの方が上でしょう? わたしが行くと、うっかり森を爆破しかねないもの」
お母様は昔から豪快なので、どっかんと大魔術を使うのは得意だけど、小さな魔術はあまり得意ではない。いつもやりすぎるきらいがあるのだ。
……確かに森を爆破されたらかなわないわね。
森を爆破したせいで、驚いた魔物が人里まで降りてきたらたまったものではなかった。
わたしは諦めて二人に同行すると決め、動きやすい服に着替えるために部屋に向かう。
着替えるだけなので五分で終わって階下に戻ると、お父様とお母様、そしてフェヴァン様が楽しそうに談笑していた。
「あの子は頑固だけど押しに弱いのよ。ガンガン押せばなんとかなるわ。それから意外とメルヘンな子で、口では違うって言っているけど、いまだに物語の王子様が……」
「……お母様」
「あ……あ、あらアドリーヌ、早かったのね」
早かったのね、じゃないわよ! 母親のくせに、男に娘の個人情報をぽんぽん出さないでくれませんかね!
恥ずかしくなってそっぽを向くと、フェヴァン様がにこにこと笑っていた。
「アドリーヌの可愛いところがたくさんわかって嬉しいよ」
だから、そういうことは口にしないでほしいのだけど!
フェヴァン様は女性を「可愛い」と褒めることに抵抗のない方のようだ。そのたびに恥ずかしくて仕方がなくなるからやめてほしい。
「じゃあ行ってくるね~」
素材回収のための革袋を背負って、お父様が意気揚々と出発した。
わたしとフェヴァン様もそのあとを追って歩き出す。
お母様がいってらっしゃ~いといい笑顔で見送ってくれた。
わたしは、詰襟の魔法騎士の制服に剣を携えたフェヴァン様を見上げてげんなりとした。
その隣には、動きやすい服に身を包んだお父様の姿もある。
「本当に二人だけで行くの?」
お母様が心配そうな顔でお父様を見た。
実は今日、お父様とフェヴァン様の二人だけで、近くの森に魔物討伐に出かけるというのだ。
エターナルローズを大量に手に入れたことから魔法薬研究の熱が上がっているお父様が、魔法薬の研究材料が足りないと言い出したのが事の発端である。
お父様によれば、今研究している薬に、どうやら森に生息している植物型の魔物の素材が必要らしいのだ。
すっかり体調もよくなったお父様は、森に素材を取りに行くと言い出して聞かず、話しを聞きつけたフェヴァン様がお父様の護衛としてついて行くことになったのである。
……外堀が、埋められていく気がする。
この二週間足らずで、お父様とフェヴァン様は、すっかり仲良くなっていた。
フェヴァン様はちょっと頓珍漢な人だけれど、できる男には間違いないのだろう。気づいたときには使用人と家族全員が丸め込まれており、全員がフェヴァン様の味方になっていた。
お父様もお母様も口をそろえて、早く婚約しちゃえばいいのに、なんて言う。
これは危険だ。
お父様が乗り気なので、ルヴェシウス侯爵家から正式な求婚が入れば、あっさり了承してしまうかもしれない。
フェヴァン様は、わたしの気持ちが整うまでは強引なことはしないと言っているけれど、外堀が埋められている時点でわたしにしてみたら充分強引である。
……どんどん断る理由が奪われていく。
責任は必要ないという理由で断ったら、責任とは関係ないと求婚されて、家族も使用人も丸め込まれ……、そして毎日の甘い言葉でわたしの心を揺さぶって来る。
危険だ。
この男は、危険だ。
あの間違った婚約破棄騒動の一件も、あの後、フェヴァン様はお母様とお父様にわたしとの出会いを語る上で全部暴露してしまった。
加えて丁重に謝罪をし、わたしに惚れたと言い出し、お父様とお母様の心を勝ち取った。
お母様がルヴェシウス侯爵家を爆破する危険が消えたのはありがたかったけれど、こういう結果は望んでいない。
お母様なんて「今時珍しいくらいの誠実な方ねえ。わたしが独身で十歳若かったら、絶対に放っておかないわぁ」なんて言っている。勘弁してほしい。
「あなた、一応病み上がりなのよ? わかってる?」
「わかっているよ。でもすっかり元気だし、フェヴァン君が一緒だからね!」
お父様のフェヴァン様への信頼がすごい……。
お母様は何度もお父様とフェヴァン様を見て、うーんと唸っていた。
フェヴァン様は国費留学もしていたし、魔法騎士団にいるエリートでもあるけれど、実力をその目で見ていないから不安がぬぐえないのだろう。
「アドリーヌ、一緒について行ってあげなさいよ。あの森、この時期は魔物たちが活発になるから、森の奥から強い魔物が出てきたら大変だわ」
魔物たちの中には、動物と一緒で冬眠するものもいる。
秋になれば冬眠に向けて栄養を蓄えようと、餌を探して活動範囲が広まるのだ。
「それならお母様が一緒に行けばいいじゃない」
「わたしが行ってもいいけど、魔術の細かいコントロールはあなたの方が上でしょう? わたしが行くと、うっかり森を爆破しかねないもの」
お母様は昔から豪快なので、どっかんと大魔術を使うのは得意だけど、小さな魔術はあまり得意ではない。いつもやりすぎるきらいがあるのだ。
……確かに森を爆破されたらかなわないわね。
森を爆破したせいで、驚いた魔物が人里まで降りてきたらたまったものではなかった。
わたしは諦めて二人に同行すると決め、動きやすい服に着替えるために部屋に向かう。
着替えるだけなので五分で終わって階下に戻ると、お父様とお母様、そしてフェヴァン様が楽しそうに談笑していた。
「あの子は頑固だけど押しに弱いのよ。ガンガン押せばなんとかなるわ。それから意外とメルヘンな子で、口では違うって言っているけど、いまだに物語の王子様が……」
「……お母様」
「あ……あ、あらアドリーヌ、早かったのね」
早かったのね、じゃないわよ! 母親のくせに、男に娘の個人情報をぽんぽん出さないでくれませんかね!
恥ずかしくなってそっぽを向くと、フェヴァン様がにこにこと笑っていた。
「アドリーヌの可愛いところがたくさんわかって嬉しいよ」
だから、そういうことは口にしないでほしいのだけど!
フェヴァン様は女性を「可愛い」と褒めることに抵抗のない方のようだ。そのたびに恥ずかしくて仕方がなくなるからやめてほしい。
「じゃあ行ってくるね~」
素材回収のための革袋を背負って、お父様が意気揚々と出発した。
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