上 下
541 / 549
第10章 異国の大決戦編

44.ワニアの戦い(36)

しおりを挟む
連合軍の人質となってしまった政武。
彼の身の解放と引き換えに連合軍の撤退という取引をアテヌは持ちかける。
祐永はその条件を飲み、兵を収めようと考えていた。

すると政武が祐永らに対して声を上げる。
アテヌのような男の要求になど応える必要などない。
そう言うと政武はアテヌの体を掴み返し、丘下の濁流目掛けて身を投げる。

次の瞬間、丘下では凄まじい爆発音が鳴り響く。
そして辺りでは爆発によってみるみるうちに大きな水柱が立っていた。
それは一瞬の出来事であり、丘下は先程と変わらない濁流へと戻っていた。

祐永
「政武、お前…」

ドヴェルク
「あぁ、なんということだ…」

祐永とドヴェルクらは、丘下の濁流の前で呆然と立ち尽くしていた。
やがて祐永が口を開き始める。

祐永
「政武め、勝手に一人で逝く奴があるか…このたわけ者、たわけ者めが…」

結果的には政武の行動によって祐永ら連合軍の者たちの身は助けられた。
だが、これは余りにも身勝手過ぎるのでは無いか。
祐永は目を潤ませながらそう呟いていた。

宗重
「政武、何故じゃ!何故に一番若いお前が死なねばならぬというのじゃ!くそっ!くそっ…」

若い者は先に死すべき存在では無いのだ。
それが何故、お前には分からぬというのだ…
宗重は目を真っ赤にしながらそう声を上げていた。

崇房
「政武殿は、我らを救おうとかようなことをなされたのでござるな。政武殿、かたじけない…真にかたじけのうございます…」

政武は、自らが犠牲となる事で祐永や長継ら連合軍の者たちの命を守り通したのだ。
その事を知らされた崇房は、その場で頭を深々と下げながら何度も何度も感謝の言葉を述べていた。

すると、何かに気付いたのであろうか、長継が声を上げ始める。

長継
「はっ!あ、あれをご覧くだされ!」

長継は、ヘルト城の方角を指差していた。

ドヴェルク
「何やら、兵たちが武器を収めておりますね…」

ヘルト城には、カルロスらの軍勢が居た。
先程の闘争心に燃える目つきからは一転し、彼らは皆が穏やかな表情をしていた。
そして、手にしていた武器を次々と収めていく。

祐永
「確かにそうではござるが…果たしてそうなのであろうか…」

カルロス含むヘルト軍の兵たちのこの変わり様に祐永は半信半疑ではあった。
まさか、先程の爆発でアテヌが死んだ事により、彼によってかけられていた洗脳が解けたというのか。
そうした事が彼の頭の中をよぎっていた。

やがて、カルロスが彼らの居る丘の方角に対して深々と頭を下げていた。
その様子からは、連合軍に対して敵意を抱いていないという事が窺える。

祐永
「あれは…カルロス殿?ふむ、どうやら我らと刀を交えるつもりはもう無いようにござるな。」

カルロスの様子を見た祐永は、ヘルト軍の者たちが正気を取り戻したという事を確信していた。

長継
「では、セビカは…セビカはこれで救われたのじゃな…」

今回の黒幕とも言えるアテヌが亡くなった事により、セビカ国滅亡の危機は何とか乗り越えた。
そう思った長継は、安堵の表情を浮かべていた。

すると、そんな長継を横目に祐永が声を詰まらせながら言う。

祐永
「じゃが、その代償は最も大きくついたようではあるがな…」

宗重
「うううぅぅ…政武、政武…」

宗重の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

処理中です...