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第10章 異国の大決戦編

36.ワニアの戦い(28)

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アテヌは連合軍に反撃すべくヘルト城から飛び立つ。
そしてやがて彼は、連合軍の前へと辿り着く。

我ら大軍勢を相手にたった一人で立ち向かおうというのか。
連合軍の将たちは皆、目の前に居るアテヌに対して嘲笑していた。

するとアテヌは、そんな彼らの前で奇妙に手足を動かし始める。
何やら踊りを舞っているようであり、それは何とも奇妙なものであったという。

そんなアテヌによる滑稽な踊りに連合軍の者たちは失笑していた。
だが次の瞬間、連合軍に異変が生じ始めるのであった。

政武
「な、何じゃ何じゃお前たち?どうしたっていうんだよ?」

崇房
「おい皆の者よ、どうされたのじゃ?」

祐永
「どうも兵たちの様子がおかしいようにござるな…」

何と連合軍の兵らは皆、足をぴたりと止めてその場に座り込んでしまったのである。
さらに言葉を一言も発する事をせず、無表情でただ一点を見つめている。
この何とも異様な光景を目にした政武らは、混乱した様子を見せている。

すると長継が静かに口を開き始める。

長継
「あの舞いを見た者は、彼らのように思考力が低下する。奴はかような催眠術を使うという噂を聞いたことがあったが、まさか真であったというのか…」

どうやら先程アテヌが連合軍の軍勢に対して見せた踊りは、一種の催眠術のようなものであると長継は言っていた。
彼が数々の怪しげな術を使うといった噂がまことしやかに囁かれていたという。
しかし余りにも非現実的なものが多かった故に、それらを信じる者は多くは居なかった。

だが、今この状況を目にした事で彼の噂は真であると長継らは知る事となったのである。

政武
「なんじゃと?真にそんなことがあるというのか?」

踊りを見せられた事で催眠状態となる話など聞いた事が無い。
そう考えていた政武は、半信半疑で長継の話を聞いているようだ。

一方で宗重が苦い表情をしながら口を開き始める。

宗重
「催眠術か…実に厄介な術を使う奴じゃな…」

自身は以前、ヘルト城に潜入した際に奇妙な体験をしていた。
それは潜入した城内で、かつて自身の手によって暗殺した男である柳幸盛の姿を見たという。

そこに居るはずも無い人間が自身の目の前に姿を現した事で彼は混乱状態となるが、後に政武による介抱を受けて正気を取り戻す。
この時に彼は、幻覚を見ていたという事に初めて気付くのであった。

こうした一連の出来事はもしや、アテヌの術によって作り出されていたのであろうか…
宗重はそう考えているようであった。

すると次にドヴェルクが首を傾げながら喋り始める。

ドヴェルク
「しかし、アテヌの舞いは我らも見ているはずにも関わらず何ともありませんが…」

アテヌの踊りは自身を含めた連合軍の者たちも見ているはず。
にも関わらず軍勢の兵たちのような状態には陥っていない。
これは一体どういう事なのであろうか…

そのドヴェルクの疑問にアテヌは、にやりと笑いながら答え始める。

アテヌ
「ふっふっふっ、貴殿たちにはあえて私の催眠術にはかからないようにしただけですよ。」

どうやら先程に彼が行った催眠術は、ドヴェルクなど軍勢を束ねる将たちに対しては無効であるという。

これは一体、どういった仕組みでそのような効果もたらしていたかは定かにはなっていない。
セビカ国の文献によれはアテヌがそうした術を用いて連合軍と戦ったと記されてはいるが、現実的に考えても有り得ないと言っても良い話だ。
それ故にこれは、後世の人物によって創作されたものでは無いかと現代においては考えられているようである。

だが、それでもアテヌが軍勢を率いて連合軍と戦ったという事は史実ではあるが。

政武
「えぇい!何をごちゃごちゃと言ってやがる!おいアテヌのおっさんよ!貴様など俺様の鉄砲で撃ち落としてくれるわ!」

政武は手にした鉄砲の銃口をアテヌに向けてそう叫んでいた。
その声に反応したアテヌは、彼の姿に目をやりながら不気味な笑みを浮かべ始める。

アテヌ
「おやおや、ずいぶんと血相盛んな御方で実にいいですねぇ。そうだ、良いことを思いつきましたよ。ふふふふふ…」

すると長継が慌てた様子で声を上げ始める。

長継
「いっ、いかん!政武殿よ!アテヌを見てはならぬ!ならぬぞ!」

アテヌ
「もう、遅い。はっ!」

政武
「うっ、くっ…うわああああぁぁぁ!」

政武は苦しみの声を上げ始めていた。
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