架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第10章 異国の大決戦編

34.ワニアの戦い(26)

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ヘルト城付近を襲った局地的な豪雨から数刻が経ち、ようやく雨脚が弱まって来た。
やがて雨は完全に止み、太陽が姿を現していた。
だがその天候とは裏腹に、ヘルト軍に対して大きな爪痕を残していった。
ヘルト城はこの豪雨で川の氾濫が引き起こした濁流によって激しく損壊していたのであった。

カルロス
「今こそ反撃の時である!」

天候が回復した今こそセビカ軍、志太幕府軍に対して反撃を加えるのだ。
カルロスは兵たちに対して決起を促していた。

するとアテヌが急かすようにして一人の男に対して声を上げ始める。

アテヌ
「カーネル!カーネルよ!例の物を直ちに用意せよ!良いか!」

カーネル。
アテヌの部下であり、先刻にアテヌが用いた飛行装置や燃え盛る炎を瞬時にして発生させる装置を開発した人物である。

彼は今回の戦いには参戦はしてはいなかったが、城内で待機していた。
そこは先刻の濁流による被害が最も少ない場所であった事で難を逃れていたようである。

カーネル
「はっ!こちらにございます!」

そう言うとカーネルはアテヌの元へと素早く駆け寄った。
彼の背中にはある物が背負われていた。
それは、先刻にアテヌが使用していた道具と同じ物であった。

アテヌ
「こういうことがあろうかと思って備えておいたのよ!」

今回のように敵軍によって道具を破壊された時の為にアテヌは、予備として同じ物をカーネルに用意をさせていたのであった。
装置を身に纏ったアテヌは、しみじみしながらそう口にしていた。
やがて彼は引き締まった表情をしてカルロスに対して言う。

アテヌ
「カルロス様、ここはどうか私にお任せくださいませ!セビカ軍や志太幕府軍を返り討ちにしてみせましょう!」

どうやらアテヌはこれより単身で連合軍の元へ向かい、反撃を加えるつもりのようである。

カルロス
「うむ、奴らに一泡吹かせてやるがよい!」

アテヌの体は装置によって宙に浮き始め、やがてヘルト城から飛び立って行った。

カルロス
「頼んだぞ、我が臣 アテヌ・ブラウスよ…」

空を舞うカルロスの背中を見ながらカルロスはそう言っていた。

一方、連合軍の陣では相変わらず政武が怪訝そうな表情を浮かべている。

政武
「ったく、それにしてもヘルトの奴らは本当に俺たちとやり合うつもりなのかよ?」

先刻の濁流によってヘルト軍の士気は一気に低下する。
軍勢の壊滅の危機に瀕してはいたがそれでも彼らは諦める事をせず、地に落ちていた士気を取り戻し始めているという。

一体、何を根拠にして我ら軍勢と互角に戦えると思っているのであろうか。
そう考えていた政武は不思議でならなかった。

すると宗重が政武に対して答え始める。

宗重
「政武よ、お前も感じてはおったであろう。あやつの殺気をな。じゃから、決して油断するでないぞ。良いな?」

先刻前に宗重と政武らがヘルト城の南側においてアテヌと戦闘状態となった時の事である。
自身らの前に姿を現したアテヌの目からはとてつもない殺気を感じ、一瞬ではあったが怯んでしまう。
そして政武もまた、彼と同じくそのような様子を感じていたという。

形勢を逆転させる為の何らかの策が有る故にここまで軍勢が盛り返したのでは無いか…
宗重はそう考えているようであった。

政武
「けっ、用心深い爺さんだこと。もうこの戦は、俺たちの勝利で間違いねえだろうに…」

全く、考え過ぎも実に甚だしいものである。
宗重によるその考えを聞いた政武は、軽く鼻で笑いながらそう言っていた。

ほどなくして長継とドヴェルクが何かに気付いた様子で口を開き始める。

長継
「むっ?何やらヘルト軍に動きが見られたようにござるな…」

ドヴェルク
「どうやら我らに対して攻撃を再開するつもりでしょうか…」

すると次の瞬間、崇房が突如として驚きの声を上げ始める。

崇房
「祐永様!あ、あれをご覧くだされ!」

彼らの目の前には、連合軍の陣に向かってくるアテヌの姿が飛び込んで来たのである。

祐永
「ふむ、どうやら我々に対して一気にかたをつけに参ろうとしておるようじゃな…」

アテヌ
「セビカの者どもに創天国の者どもよ、覚悟して待っているが良い。ふっふっふっ。」

アテヌは不気味な笑みを浮かべながらそう言っていた。
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