架空戦国伝

第１０章 異国の大決戦編

33.ワニアの戦い（２５）

川の氾濫が発生した事でヘルト城は水に浸かってしまう。
また、激しい濁流を受けた事による損壊があちこちで見られていた。
この事態にヘルト軍総大将であるカルロスは混乱状態に陥っていた。

「ヘルトの名の下において正義を貫き通す為にも我らは負けるわけにはいかない」
アテヌによるそうした覚悟の言葉によって彼は正気を取り戻すのであった。

カルロス
「皆の者よ、今一度！今一度思い出せ！我らがどのような想いで兵を挙げ、新たな勢力を立ち上げたのであるかをな！」

セビカ国による泰平の世などは偽物である故、我らが正義の名の下においてこれを滅ぼす。
ヘルト独立勢力は、真の泰平の世を築く為に樹立されたのだ。
よもやその事を忘れたとは言わさぬぞ。

カルロスは、兵たちに対してそう呼び掛けの声を上げていた。
それは一方的にセビカを悪とみなし、ヘルトこそが正義であるかのような物言いであった。

兵
「はっ！そうであった…カルロス様！我らは正義の為、戦っているのでございますね！」

兵たちはカルロスの言葉を聞いた事により、一気に精気を取り戻していた。

政武
「おいおい…何じゃ何じゃ？ヘルトの奴らがやけに騒々しいじゃねえか。どうしたっていうんだ？」

連合軍の本陣では政武が不思議そうな表情でそう言っていた。
そして宗重がヘルトの軍勢を見た後に、口を開き始める。

宗重
「どうやらヘルト軍は、この土壇場で士気を持ち直したようにござるな。まだ戦える力が残っておるというのか。」

政武
「はぁ？この期に及んでまだ諦めてはいねえとはな。けっ、実におめでたい奴らじゃ。」

ヘルト城は、先刻の川の氾濫によって引き起こされた濁流を受けた事で見るも無惨な形へと遂げていた。
城は権力の象徴であり、攻守の要と言っても良い存在である。
それが今まさに音を立てて崩れ去ろうとしている。

だがそれでもヘルト軍の兵たちは、諦める事無く立ち上がり始めている。
全くもって往生際の悪い話である。
政武は、そのようなヘルト軍に対して実に滑稽であると思っているようであった。

すると崇房が神妙な顔つきをしながら言う。

崇房
「しかし、奴らは何か勝機がござって故のことであったとするならば…実に厄介なこととなりましょうぞ…」

ここまで追い込まれているにも関わらずに兵たちは士気を取り戻している。
劣勢から優勢へと戦局を一気に覆す、そのような切り札が彼らには残されている故の事なのであろうか…
崇房はそのように考えているようであった。

崇房の言葉に対して祐永は深く頷いた後に口を開き始める。

祐永
「うむ、それは我も思うておった。それにしてもヘルトの者たちは、何やら深い執念を感じようぞ…」

確かに何らかの切り札を残していなくば、ここまで士気を持ち直す事は無いであろう。
それに付けて
「何が何でもこの戦に負けるわけにはいかない」
と言った強い想いが彼らの根底には有るのではないか、と祐永は考え始めていた。

それから数刻が経ち、ヘルト城周辺の天候は回復。
先程の豪雨がまるで嘘であるかのような快晴の空となっていた。

カルロス
「どうやら雨が止んだようじゃな。見よ、アテヌ！太陽が我らの前に姿を現したぞ！」

アテヌ
「では、反撃といきましょうか…」

太陽の光に照らされながらアテヌはそう言っていた。