架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第10章 異国の大決戦編

32.ワニアの戦い(24)

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ヘルト城の北側を流れる川の氾濫により、周囲には濁流が押し寄せて来た。
危険を感じたヘルト軍は被害を最小限に抑えるべく城門を全て開け放つ。
そして城外に陣を構える連合軍は、迫り来る濁流をやり過ごすべく丘の上へと全軍が移動していた。

濁流に飲まれつつあるヘルト城を見ながら宗重が口を開き始める。

宗重
「それにしても、実に凄まじい…あと少し遅くば我らは…」

あと一歩、逃げるのが遅ければ我らはこの濁流に飲まれていたであろう。
そう語る宗重の表情は引きつっていた。
どうやら連合軍は、間一髪のところで濁流から逃れられたようである。

祐永
「うむ、まずは全軍が無事で何よりにござるな。」

祐永は、自身らの軍勢が被害に遭う事無く避難出来たという事に対して安堵の表情を浮かべていた。

一方、ヘルト城ではカルロスが戸惑いの声を上げていた。

カルロス
「あぁ、城が…我がヘルト城が…」

自身の居城が激しい濁流によって見るも無惨な形へと遂げようとしているのだ。
この惨劇を彼は受け入れたく無かったのであろうか、どうやら思考が停止し始めているようであった。

するとアテヌが苦い表情を浮かべながら口を開き始める。

アテヌ
「くっ…セビカの者どもは実に舐めた真似をしてくれるものよ…それにしても…」

そう言いながらアテヌはカルロスに目を向けていた。

カルロス
「一体どうすれば…どうすれば良いというのだ…」

こうしている間にも濁流は城を破壊し続けている。
このままでは城は崩壊し、軍勢も壊滅してしまう。
何か良い方法は無いのであろうか…
カルロスはなおも慌てふためいている様子であった。

それ見たアテヌが舌打ちをしながら呟き始める。

アテヌ
「ちっ、ここにきて面倒な者がまた一人増えたか。やれやれ…」

そう言うとアテヌは一息ついた後にカルロスへ声を送り始める。

アテヌ
「カルロス様、今こそ我らヘルト軍の力を見せる時ですぞ!ヘルトの君主であられる御方がそのような弱気ではなりません!さあ、立ち上がるのです!」

確かに現在の我が軍は窮地に立たされている。
だが、そこで立ち止まるという事はすなわち自軍の敗北を意味する。
危機を脱却するか否かは軍の総大将であるカルロス自身にかかっているのだ。
それ故に、今ここで弱気な姿勢を見せてはなりません。
アテヌはカルロスに対してそうした活を入れる言葉を投げ掛けていた。

するとカルロスはみるみるうちに落ち着きを取り戻し始めた。
つい先程まで慌てふためいていたとは思えぬほどの変わりようである。
やがてカルロスがアテヌに対して声を掛ける。

カルロス
「そうであったな…アテヌよ、心配かけてすまぬ。そして、恩に着るぞ!」

そして背筋をぴんと伸ばして軍勢に対して声を上げ始める。

カルロス
「皆の者よ、この場を何としてでも乗り切ってセビカ軍を撃破するのだ!我らヘルト軍の正義を貫く為にもな!」

我らは正義の名の下においてセビカ軍を討ち滅ぼす為に立ち上がったのであろう。
その事を忘れる事無く動き、立ち塞がる困難を乗り越えるべし。
軍勢にそう呼びかけるカルロスは凛々しい表情をしていた。

アテヌ
「それにしてもカルロス・ヘルトは実に扱い難い男だな…まあもう少しだけ利用する価値はあろうか…」

アテヌは首を傾げながらそう呟いていた。
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