架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

69.アテヌの能力

政武は、ヘルト城への潜入によって得られた情報の報告を行った。
その中で、アテヌ・ブラウスという男の存在について言及を始める。
それは、人を意のままに操る事が出来る能力を彼は持っているのでは無いかといった内容であった。

もし、これが事実なのであらば、非常に厄介な事となるであろう…
そう口にしていた長継に対して貞広が問い掛けの言葉を発する。

貞広
「長継殿、それはどういう意味にございますか？」

すると長継が答え始める。

長継
「カルロス殿は、アテヌに操られておるのやも知れぬということにございます。」

アルドの側近であったカルロスはセビカに突如として反旗を翻し、独立勢力を樹立させた。
これらの事は、アテヌが裏でカルロスを操って起こさせたものでは無いかと長継は考えているようであった。

貞広
「何と！かようなことがあると申すわけか。」

長継によるその言葉を聞いた貞広は驚きながらそう言っていた。
そしてドヴェルクが頷いた後に喋り始める。

ドヴェルク
「確かに、カルロスほどの男が我が兄であるアルドを裏切るとは考えにくいですね。だとすれば…」

アルドに対するカルロスの忠誠心は、他の家臣たちと比べて非常に高いとドヴェルクは考えていたようである。
ヘルト一族は、初代国王であるエリック・セリアーの代より家臣として仕えている謂わば普代衆の地位にある。
それ故に、カルロス自身が今回のような行動を起こした事は彼の本意なのであろうか疑問を抱いているという。

そう語るドヴェルクに対して長継が答える。

長継
「うむ、恐らく此度の黒幕はアテヌ…あやつと考えても良いでござろうな。」

貞広
「カルロス殿を操り、自身はその影で構えるアテヌ…真に卑怯なり…」

自身の手を汚さずに他の者、それもセリアー一族の腹心であるカルロスにその役目を押し付けている。
そのようなアテヌの行動に対して貞広は沸々と怒りが湧き上がっていた。

やがてそうしていると次に長継が思い出したように口を開き始める。

長継
「それと、アテヌは怪しげな術を使うという噂も耳にしておる。何でも、相手に幻を見せて混乱させるという術らしいのじゃが…」

どうやらアテヌは洗脳によって相手を意のままに操る力だけではなく、相手に対して幻を作り出して混乱状態に陥らせる能力も備えているとの事であった。

宗重
「ほう、幻にござるか…幻…はっ！」

そう口にした瞬間、宗重は驚きの表情を見せる。

政武
「むっ？どうしたってんだ爺さんよ？」

宗重
「もしや、儂があの時に見た幸盛は…奴の術で作り出した幻、ということではござらんか？」

ヘルト城において宗重は、柳幸盛と遭遇していた。
だが幸盛は過去に宗重自身の手によって暗殺されている為、こうした形で再会する事などは絶対に有り得ぬはず。
にも関わらずその姿を確認したというのであらば、それは宗重自身が見た幻覚以外のなにものでも無いであろう。

ここで宗重は改めて考えた。
この奇妙な出来事は、アテヌによる術によって作り出されたのでは無いであろうか、と。

すると長継が深く頷いて言う。

長継
「うむ、その可能性は非常に高いかも知れませぬな。」

宗重
「アテヌ・ブラウス、真に恐るべし男にござるな…」

宗重はアテヌの底知れぬ能力に対して恐れを感じているような様子であった。