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第9章 創天国の魂編
64.夢か幻か
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宗重は、地獄より舞い戻って来たという幸盛との戦いに破れていた。
やがて観念した宗重は目を閉じ、自身の首を幸盛に預けるように傾け始める。
その時、一人の男の声が小屋の中で響き渡る。
男は宗重の様子を心配しているような口調であった。
男の声を聞いた幸盛は残念げな表情を浮かべた後に、煙のように消え去っていた。
小屋の中でなおも目を閉じながら膝をついていた宗重に対して男がたまらず声をかける。
「おい、爺さん…しっかりしろよ!あんた、一体何があったっていうんだよ!」
その男の声の主は、政武であった。
政武のその声を聞いた事で宗重は先程まで閉じていた目を開けて言う。
宗重
「う、ううぅぅぅ…はっ!儂は一体…何をしておったのじゃ…」
そして政武の顔を見るやいなや驚きの表情を見せながら声を上げる。
宗重
「はっ!政武!お前、生きておったのか!これは…よもや夢ではござらぬのか?」
政武
「夢でも幻でも無いわ!この通り、俺は死んではおらぬ。」
宗重と政武らは、ワニア山からヘルト城を目指して共に足を進めていた。
だが、その途中で政武は局地的に発生した崖崩れの餌食となってしまう。
ワニア山の深い谷底へと真っ逆さまに落ちていく政武。
最早絶体絶命の状態と言っても良いであろう。
そして彼が続けて口を開く。
政武
「あの時は流石にもう駄目じゃろうと思っておった。じゃがな…」
崖崩れに飲み込まれた政武の体は、たちまち凄まじい速度で谷底へ向けて墜落し始める。
その谷の深さや、地獄へと通じていても不思議では無い程の深さであったという。
一瞬の出来事ではあったが、政武もこれには死を覚悟していた。
自身は谷底の地面へと激しく叩きつけられる事で間違いなく命を落とすであろう。
だが、その時に奇跡が起きる。
何かが彼を包み込むようにして地面に落下したのである。
それは、木の葉の山であった。
何重にも積み重なった木の葉の上に落下した事でその衝撃を見事に吸収し、政武は一命をとりとめたのであった。
さらに不思議な事にこの木の葉の山は、政武が落下した箇所だけに存在していたという。
それは、まるで政武がこの場所に落下する事を知っていたかのように…
政武
「それ故に、俺が今こうして生きておることも真に不思議でな。どうしたもんかねぇ?」
この奇跡とも呼べる出来事を身をもって体験した政武自身は、今も信じられないと言っていた。
すると宗重は真剣な表情をして答える。
宗重
「それはきっと、政豊殿じゃな。木内政豊殿のお陰に違い無かろう。」
木内政豊。
政武の父であり、かつて柳国において盗賊衆を束ねていた頭領である。
初めは柳家の大名 柳幸盛に仕え、当時の志太家とは敵同士であった。
だが、志太家の武将 口羽崇冬との戦いに敗れた事を機に以後は志太家に対して協力的な姿勢を見せるようになる。
三浦宮御所の戦いでは反旗を翻す動きを見せるも後に志太祐藤の説得によって結果的に再び志太軍へと味方し、志太軍を勝利に導く。
志太家による幕府が開かれると自身は表舞台から姿を消し、その生涯を終えた。
宗重
「お主の御父上の政豊殿は、死してもなおお主を守られておるということじゃな。政武よ、政豊殿に感謝致すが良い。」
政豊のように豪快かつ大胆な人物であったとしても、子を想う親心は必ずや有るはずだ。
それ故に、生涯を通して親に感謝することを決して忘れるなかれ。
宗重はそう言っていた。
政武
「俺の為に、か…ただの大馬鹿者の親父では無かったということかねぇ。親父、ありがとうよ…」
政武の目には薄っすらと涙が滲んでいた。
やがて観念した宗重は目を閉じ、自身の首を幸盛に預けるように傾け始める。
その時、一人の男の声が小屋の中で響き渡る。
男は宗重の様子を心配しているような口調であった。
男の声を聞いた幸盛は残念げな表情を浮かべた後に、煙のように消え去っていた。
小屋の中でなおも目を閉じながら膝をついていた宗重に対して男がたまらず声をかける。
「おい、爺さん…しっかりしろよ!あんた、一体何があったっていうんだよ!」
その男の声の主は、政武であった。
政武のその声を聞いた事で宗重は先程まで閉じていた目を開けて言う。
宗重
「う、ううぅぅぅ…はっ!儂は一体…何をしておったのじゃ…」
そして政武の顔を見るやいなや驚きの表情を見せながら声を上げる。
宗重
「はっ!政武!お前、生きておったのか!これは…よもや夢ではござらぬのか?」
政武
「夢でも幻でも無いわ!この通り、俺は死んではおらぬ。」
宗重と政武らは、ワニア山からヘルト城を目指して共に足を進めていた。
だが、その途中で政武は局地的に発生した崖崩れの餌食となってしまう。
ワニア山の深い谷底へと真っ逆さまに落ちていく政武。
最早絶体絶命の状態と言っても良いであろう。
そして彼が続けて口を開く。
政武
「あの時は流石にもう駄目じゃろうと思っておった。じゃがな…」
崖崩れに飲み込まれた政武の体は、たちまち凄まじい速度で谷底へ向けて墜落し始める。
その谷の深さや、地獄へと通じていても不思議では無い程の深さであったという。
一瞬の出来事ではあったが、政武もこれには死を覚悟していた。
自身は谷底の地面へと激しく叩きつけられる事で間違いなく命を落とすであろう。
だが、その時に奇跡が起きる。
何かが彼を包み込むようにして地面に落下したのである。
それは、木の葉の山であった。
何重にも積み重なった木の葉の上に落下した事でその衝撃を見事に吸収し、政武は一命をとりとめたのであった。
さらに不思議な事にこの木の葉の山は、政武が落下した箇所だけに存在していたという。
それは、まるで政武がこの場所に落下する事を知っていたかのように…
政武
「それ故に、俺が今こうして生きておることも真に不思議でな。どうしたもんかねぇ?」
この奇跡とも呼べる出来事を身をもって体験した政武自身は、今も信じられないと言っていた。
すると宗重は真剣な表情をして答える。
宗重
「それはきっと、政豊殿じゃな。木内政豊殿のお陰に違い無かろう。」
木内政豊。
政武の父であり、かつて柳国において盗賊衆を束ねていた頭領である。
初めは柳家の大名 柳幸盛に仕え、当時の志太家とは敵同士であった。
だが、志太家の武将 口羽崇冬との戦いに敗れた事を機に以後は志太家に対して協力的な姿勢を見せるようになる。
三浦宮御所の戦いでは反旗を翻す動きを見せるも後に志太祐藤の説得によって結果的に再び志太軍へと味方し、志太軍を勝利に導く。
志太家による幕府が開かれると自身は表舞台から姿を消し、その生涯を終えた。
宗重
「お主の御父上の政豊殿は、死してもなおお主を守られておるということじゃな。政武よ、政豊殿に感謝致すが良い。」
政豊のように豪快かつ大胆な人物であったとしても、子を想う親心は必ずや有るはずだ。
それ故に、生涯を通して親に感謝することを決して忘れるなかれ。
宗重はそう言っていた。
政武
「俺の為に、か…ただの大馬鹿者の親父では無かったということかねぇ。親父、ありがとうよ…」
政武の目には薄っすらと涙が滲んでいた。
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