架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第9章 創天国の魂編

63.亡霊の恨み

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ヘルト城内にある小屋の中では、宗重と幸盛による一対一の戦いが繰り広げられていた。
初めの方は共に互角の戦況ではあったが、次第に宗重は劣勢の状態に陥り始める。

どうやら休むこと無くヘルト城までワニア島を横断した疲れがここにきて一気に押し寄せて来たのであろう。
やがて宗重は息を激しく切らせ、膝をがくんと落としてその場にへたり込んでしまう。
宗重の首元には幸盛の刀がぴたりと付けられている。

幸盛
「ふふふ、代わりに儂が念仏でも唱えて貴様を冥府へ送り届けてやろうぞ。悪い話ではござらぬであろう?」

宗重
「ほざけ、貴様ごときの男が念仏なぞ片腹痛いわ。」

幸盛のような罪深き者による念仏など何の意味があるというのだ。
今にも倒れんばかりの表情を見せている宗重が出した精一杯の罵声であった。
幸盛はその言葉を軽くあしらい、薄気味の悪い顔をして言う。

幸盛
「ふん、何とでも申せ。貴様の命は儂が今握っておる故、せいぜい吠えておくことじゃな。」

宗重が戦いに敗北した事は事実である。
それ故に、今この場でどのような言葉を発したとて何も変わらない。
遺言を残すのであれば今のうちに口にしておくが良いであろう。
幸盛はそう言いたげな様子であった。

すると宗重が引き締まった表情を見せて答える。

宗重
「貴様に言われずとも覚悟はとうに出来ておる。さっさと斬れ…」

最早こうなってしまった以上、自身の負けを認めざるを得ないであろう。
どうにもならぬ悪あがきをして醜態を晒すくらいならば己の命などくれてやる。
何とも潔く、そして孤高でもある物言いであった。

その宗重の毅然たる態度を見た幸盛はさらに不気味な笑みを浮かべながら言う。

幸盛
「ほほう、それは良き心構えじゃな。ではお望み通り貴様のその命、いただこうとするかのう。ふふふ…」

幸盛は手にした刀を宗重の頭上に向けて大きく振り上げ始める。

宗重
「宮本宗重、これより冥府に参ろうぞ…」

と、その時である。
どこからともなく男の叫び声が小屋の中で響き渡る。

「おい、そこで何をしておる!しっかりしろ!これは、一体どうしたというのじゃ!」

その男の声を聞いた幸盛が体をぴたりと止める。

幸盛
「ちっ、邪魔が入ったか。せっかく良きところじゃったのに…まぁ良いわ。宗重よ、貴様も真に運の良き男でござるのう。」

そう言うと幸盛は悔しげな表情で手にした刀を投げ捨てていた。
今まさに幸盛の手によって討たれんばかりの絶体絶命の危機に瀕していた宗重ではあったが、どうやら邪魔が入った事によって救われたようだ。
運も実力のうちとはいやはや良く言ったものであり、幸盛は宗重の運の良さに対して感心させられてる様子であった。

そして幸盛がなおも不気味な笑みを浮かべながら言う。

幸盛
「じゃが、よう覚えておけよ。今日の儂は、明日の貴様じゃということをな!その日までせいぜい怯えておくが良い!ふはははは!」

今日の幸盛は明日の宗重である。
つい先程に宗重との再会を果たした際に幸盛が口にしていた言葉である。

次に会った時こそは必ずその命を仕留めて見せる故に、覚悟して待っているが良い。
幸盛はそう言わんばかりの表情を見せていた。

幸盛
「儂は何度でも冥府から戻って貴様を討つ。それ故、首を洗って待っておるが良い!」

最後にそう言い残すと幸盛は一瞬にしてその場から消え去っていた。
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