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第9章 創天国の魂編

62.窮地

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ヘルト城内にあった一棟の小屋に侵入した宗重。
そこではかつて自身の手によって暗殺したであろうはずの幸盛が再び目の前に現れていた。
たとえ相手が亡霊であろうとも自身の行く手を阻む者は斬り捨てるのみ。
こうして宗重と幸盛による一対一の戦いが始まった。

共に互角の戦いがしばらくの間は続いていたが、次第に宗重の表情に疲れの色が見え始める。
劣勢へと転じつつある宗重に対し、余裕そうな表情を見せながら幸盛が言う。

幸盛
「どうした宗重!貴様の力はその程度のものでござったのか?ん?」

息を切らせながらも気丈な振る舞いを見せる宗重ではあったが、幸盛にはそれが滑稽なものに見えて仕方無かった。
そして続けて幸盛が口を開く。

幸盛
「それにしても儂は、かような弱き男に討たれたというのか。我ながら真に恥であったな…」

幸盛は自身の死後に宗重を永遠の好敵手として考え、再び戦いを申し込むつもりであった。
その中で「敗北」という名の二度目の失態を犯す事を異常に恐れてか、冥府でも鍛錬は欠かさなかったという。

そうして今、再び出会った宗重と刀を交える時がようやく訪れる事となる。
自身を討った程の者との再戦とあらば、それなりの苦戦となるは必定。
だが、戦国の世を生きた武人である身としてはそれもまた一興。
存分に楽しませてくれる事となるであろう。
幸盛はそう考えていた。

しかし、蓋を開けてみればそれが期待外れなものである事を知らされ、幸盛は失望の表情を見せるのであった。

宗重
「貴様、どこまでも儂を馬鹿にしおってからに…ぐっ…」

そう言うと宗重は片膝をがくんと落としていた。
幸盛によって罵声を浴びせられた事で悔しげな表情である。
だがすぐに立ち上がり、鬼のような形相へと一気に切り替わる。

宗重
「この宮本宗重、悪に屈することなぞ無い!覚えておかれよ!」

そう言うと幸盛に対して激しく斬りかかった。
それと同時に幸盛は素早く刀を振って応戦する。

幸盛
「ふんっ!貴様の攻撃は既に見切っておる故、無駄じゃ!」

お互いの刀は激しくぶつかり合い、凄まじい音が響き渡る。
幸盛の反撃を受けた事によって宗重が手にしていた刀が弾き飛ばされてしまう。
その直後に宗重はよろめき、両膝を落としていた。

すると幸盛が嬉しそうに笑いながら口を開く。

幸盛
「ふっ、真に無様なものよな。これがあの村上島忍衆頭領の宮本宗重とは聞いて呆れるわ。」

宗重
「はぁ…はぁ…ふざ…け…るな…。うっ、く…くそっ…」

当時は若さ溢れる青年であった宗重も、今では歳を重ね続けて老体となっていた。
いくら日々の鍛錬を怠らずに過ごしたとて、老いには勝つ事は出来ない。
今回のような一対一の激しい戦いでは、特に体に大きな負担がかかっていたようである。

幸盛
「どうやらこれから冥府に行かれるのは宗重、貴様のようじゃな。」

幸盛は、膝をついて屈んでいる宗重の首元に刀の刃先を向けていた。
今にもその首を斬り落とさんばかりの様子である。
そして不気味な笑みを浮かべながら幸盛が言う。

幸盛
「どれ、折角じゃから儂直々に冥府まで貴様を案内をしてやろうではないか。有り難く思うが良い。ふはははは!」

宗重
「き、貴様のような悪党にやられるとは…真に無念なり…」

宗重は歯を食いしばりながら目を閉じていた。
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佐村孫千Webサイト
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