架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第9章 創天国の魂編

56.潜入の策

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ヘルト城を見た宗重は、警備の兵が一人も居ない事から守りが手薄なのでは無いかと考えていた。
しかし、彼の目の前で凄まじい罠が発動した事でそれは浅はかな考えであったと思い知らされる。
そして同時に、忍びの者としての意地を見せるべく気を奮い立たせて潜入を開始するのであった。

宗重
「思うに、城の裏手は罠だらけにござろうな。と、すれば…むぅ…」

つい先程に自身の前で罠が発動する様子を目にした宗重は、少し慎重な様子を見せていた。
そうしてやがて腕を組み始めながら言う。

宗重
「むしろ、あえて正門から忍び込むという手も無くはないかも知れぬな。」

宗重は、城の正面付近の方は罠は少ないかも知れないと考えているようだ。

城に出入りする者は何もヘルトの家臣たちだけに限った事では無いであろう。
ワニア島の領民たちもヘルト城を訪ねに来る場合もあるはずだ。

もし、城の正面にもそのような物騒とも言える罠を配置していれば、何も知らぬ領民たちはたちまちその罠の餌食となろう。
たとえそれがヘルト側にとって不本意なものではあったとしても、何の罪も無い者が罠の犠牲になったという事で領民たちの不満を招く恐れがある。
そうした事を考慮すれば果たして城の周り全てに罠を配置するであろうか。

宗重
「それか、抜け穴があれば良いのじゃが…」

抜け穴。
それは、城として機能している建物であらば必ずと言っても良いほど用意されているものである。

特にここセビカは、創天国と同じ封建制度で国が成り立っている。
そうした情勢においては、いつ敵が発生してその身を脅かされるかも知れぬ危険が潜んでいる。

もし、領内で謀反や一揆などの有事が発生した際には、領主らが安全に逃亡できる為に抜け穴を使用する。
国を治める者たる者や、こうした危険を回避する為の切り札は用意しておくものであろう。

など、宗重はあれこれと考えていた。
しかしすぐに冷静な様子となり、口を開き始める。

宗重
「じゃが、いずれにせよ下手にのこのこと城へ近付くは禁物である故、他の手を考えるべきであろうか…」

先程に宗重が口にしていた事はあくまでも自身による憶測にしか過ぎず、確固たる根拠は存在しない。
不確かなものを正として考える事は余りにも軽率でそして危険である故に、行動に移す事はしなかったのである。

やがて宗重は、城の西側の方面を見て呟き始める。

宗重
「うむ?そういえば、向こう側は随分と立派な木が生えておるのう。木、か…」

宗重が顔を向けたヘルト城の西側には、木が生い茂る林が存在していた。
すると何か名案が浮かんだのであろうか、宗重は一人手を叩いて声を上げる。

宗重
「そうじゃ、これじゃ!この手ならば城へ忍び込むことができそうじゃ!」

ヘルト城の西側付近に生い茂っている無数の木々。
その木に登り、そこから城壁を越えて城内へと忍び込む事が出来るのでは無いか。
どうやらこれが宗重の考えたヘルト城への潜入案のようであった。

地上からの潜入となれば、罠によって飛び交う無数の矢の餌食となるは明白。
だが、木の上という陸上から離れた高い場所からの潜入であればどうであろうか。
宗重はそう考えていたのである。

宗重
「どれどれ、では少しばかし試してみようかの。」

そう言うと宗重は、生い茂る木々の中で最も成長して背の高いであろう木へと登り始めていた。
目にも留まらぬ早さで宗重はたちまち木の頂上へと登りきっていた。

宗重
「あとはこいつを使って…よっ、と。」

宗重は懐から鉤縄を取り出し、城内へと向かって投げた。

宗重
「よし!儂の考えは吉と出たようじゃな。」

宗重は自慢気な口調でそう言っていた。
どうやら鉤縄は城壁の角の部分に引っ掛かったようである。

「くっくっくっ、どうやら鼠が一匹迷い込んで来たようだな。老いた薄汚い鼠がな。」

ちょうどその頃、ヘルト城内では一人の男が不気味な笑みを浮かべながらそう呟いていた。
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