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第9章 創天国の魂編

51.険しき山

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先刻に崖崩れに遭った政武を犠牲にするも止むなしと考えた宗重は一人、その場を離れる。
その途中にも幾度となく崖崩れが彼を襲うが何とかこれを突破。
ワニア山の中腹部に構えるヘルト城を目指して再び進み始めていた。

宗重
「政武が音を上げようとしておったのも頷けるのう…」

政武はワニア山に対してその険しさに圧倒されていた。
一方で宗重は政武とは対照的な態度でそれを一蹴。
かような事で音を上げるなどは忍び失格である。
その言葉が政武の心に火をつけ、士気を高めて再び任務に臨み始めるのであった。

だが、それは今の状況に立たされた事で自身が言った事が果たして良かったのであろうかと考え始めていた。
同時に、仲間でもあり相棒でもある政武を助ける事が出来なかった事に対する自責の念にも駆られている。
いくら今、あれこれ考えようとも覆水盆に返らずであるという事を改めて知らされた宗重であった。

そうしてしばらく山中を進むと宗重が苦い表情をして呟き始める。

宗重
「崖崩れを突破したと思えば今度は霧か。やれやれ、真に忙しき山にござるな…」

宗重の目の前には濃い霧が立ちはだかっていた。
その霧はみるみるうちに発達し始め、やがては宗重の周りを完全に包み込んでいった。
一寸先も見えぬほどの濃い霧に視界が遮れ始めていく…

すると宗重はおもむろに懐から一つの道具を出して言う。

宗重
「信栄斎殿の霧眼鏡を用意しておって良かったわい。」

・信栄斎(しんえいさい)
出生地は不明とされており、志太幕府創設以前の頃に墨山国へ移住して来たという。
そこで奇抜で斬新な知恵を絞り出すなど豊かな才能を発揮し、墨山国内でたちまち噂となる。
やがてその噂を聞きつけた墨山国大名の外河頼隆は、墨山国の発展の為と彼を説得して外河家の家臣となった。
霧のような見通しの悪い場所であってもくっきりと見渡す事が可能となる道具 霧眼鏡(むげんきょう)を開発する。
志太軍は外河軍との決戦時にこの霧眼鏡によって苦戦を強いられ、一度の敗北をしている。
現在は墨山藩外河家 家臣である。

この霧眼鏡により、霧に包まれた中であっても難無く移動をする事が継続出来たのであった。

宗重
「それにしてもこのワニア山は、真に不思議な地であるな…」

宗重は、自身が今居るワニア山について何とも言えぬ奇妙さを感じているようである。
そして神妙な顔つきで続けて言う。

宗重
「そういえばドヴェルク殿は、この山には神が住まわれておると申しておったが…まさかな…」

「神」
その言葉を口にした宗重は、少し怯んだような様子を見せていた。

ワニア島は、太古の昔にワニア神と呼ばれる神の力によって現在の地形が形成されたという言い伝えがあるという。
創天国もまた創天大神の法力によって現在の創天列島が出来たとされている伝説が残されている。
国は違えど同じ人類という共通点から、こうした言い伝えや伝説はどこか似通ったものが生まれるものなのであろうか…

そうして進み始めて一刻ほどの時が経った。
宗重は装着していた霧眼鏡を外し、軽く一息をついた後に口を開く。

宗重
「ふぅ、どうやら霧はここまでのようじゃな。」

すると、霧が晴れた先の光景に何かを見つけたのであろうか、宗重が声を上げる。

宗重
「むむっ、あそこに見えるものは…もしや?」

宗重の目は大きく見開いていた。
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