上 下
457 / 549
第9章 創天国の魂編

49.不慮

しおりを挟む
ヘルト城への潜入を行うべくワニア山から足を進める宗重と政武ら。
途中で宗重の言葉に気を悪くした政武は一人、先へと足を進める。
すると政武の周りで大きな音が鳴り響く。
その直後、政武の姿は一瞬にして宗重の前から消えていた。

大きな音は、崖崩れであった。
政武の居た場所を中心に崖崩れが発生していたのだ。
どうやら宗重らが居たワニア山の東部は非常に地盤が弱く、崖崩れなどが多発している場所のようである。

宗重
「政武…あれほど足を止めよと申したであろうが…」

この事態に宗重の顔面はたちまち蒼白となっていた。
そうして目を見開いて崖の下を見渡し始め、政武の姿を確認していた。

宗重は、忍者としての任務を幾度となく遂行していくうえで闇夜であったとしても周りをはっきりと見渡せる能力が身に付いていた。
だが、その能力をもってしてでも政武を見つけ出す事は出来なかったのである。
この事からも今回、政武が落ちた崖下は相当な暗さであった事が分かる。

宗重
「政武!生きておるか?無事であらば返事をいたせ!政武!政武!」

宗重は必死の形相で崖下にいるであろう政武に対して呼びかけの声を発していた。
しかし、政武がその声に反応する様子は無いようである。
宗重は続けて政武に呼びかけの声をかけようとしたが、思いとどまる。

ここは敵軍であるヘルト独立勢力の本拠地。
そのような場所で何度も大きな声を上げるという事は、自身の存在が敵に知られてしまう可能性がある。
それ故に、大きな声を上げたくても上げられなかったのである。

宗重
「政武、政武は…無事か?無事なのであろうか…」

自身による呼びかけの声に対してもそれに応じる様子は全く無い。
こうした事から政武の身を案じている宗重は不安な表情を浮かべている。

すると次の瞬間、宗重の周りでも大きな音が鳴り響いた。
またしても崖崩れが発生していたのである。
今度は、ちょうど宗重の目の前にあった地面が一瞬にして無くなっていた。

この状況に宗重がたまらず声を漏らす。

宗重
「いかん、余りにもここは危険過ぎる…これでは儂までもが餌食となってしまおうぞ。」

自身もまた先程の政武に同じくいつこの崖崩れの餌食となるか分からない。
この場所に長く留まれば自身の命も危うい事は間違い無い事実である。
自身の目の前で発生した崖崩れによって出来た深い谷底を見つめながら宗重が呟く。

宗重
「む、むぅ…かくなる上は…こうするしか、無いのであろう…」

毅然たる態度を見せて宗重が言う。

宗重
「我らは主命を果たさねばならぬ身である故、先を急がせてもらうぞ。政武、許せ。許せよ…」

忍者は、与えられた主命を果たす為に存在しているのだ。
特に今回のように複数人での行動の場合、たとえ仲間を失ったとしても一人は生き残って必ず任務を遂行し、無事に帰還しなければならない。
それが忍者として生きる身である者たちの信念なのであるから…

余りにも非情過ぎる信念ではあるが、宗重はそうした覚悟を持ったうえで常に忍者として生きて来た。
今回、このような場面に直面した事によって迷いの表情を見せてはいたがすぐに意を決した表情へと切り替わっていた。
宗重は、自身の中そう納得をしていた。
そうせざるを得なかったのである…

宗重は断腸の思いでその場を去っていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生エルフによる900年の悠久無双記~30歳で全属性魔法、100歳で古代魔術を習得。残り900年、全部無双!~

榊原モンショー
ファンタジー
木戸 稔《きど・みのる》 享年30。死因:交通事故。 日本人としての俺は自分の生きた証を残すこともなく、あっけなく死んでしまった。 死の間際に、「次はたくさん長生きして、自分の生きた証を残したいなぁ」なんてことを思っていたら――俺は寿命1000年のエルフに転生していた! だからこそ誓った。今度こそ一生を使って生きた証を残せる生き方をしようと。 さっそく俺は20歳で本来エルフに備わる回復魔法の全てを自在に使えるようにした。 そして30歳で全属性魔法を極め、100歳で古代魔術の全術式解読した。 残りの寿命900年は、エルフの森を飛び出して無双するだけだ。 誰かに俺が生きていることを知ってもらうために。 ある時は、いずれ英雄と呼ばれるようになる駆け出し冒険者に懐かれたり。 ある時は、自分の名前を冠した国が建国されていたり。 ある時は、魔法の始祖と呼ばれ、信仰対象になっていたり。 これは生ける伝説としてその名を歴史に轟かしていく、転生エルフの悠々自適な無双譚である。 毎日に18時更新します

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...