架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

48.闇夜の中での任務

ワニア山では宗重と政武らによる潜入活動が開始。
現在は真夜中の刻であったが、闇夜に紛れての行動が忍び本来の能力を発揮できるはずである。
そうした宗重による考えのもとで作戦は決行され、暗闇に包まれた中で二人はヘルト城を目指して足を進めている。

政武
「それにしても真に険しき山じゃのう。登りきれるであろうか…」

足を進めながら政武はそう呟いていた。
すると宗重は軽く鼻で笑いながら政武に対して声をかける。

宗重
「ふむ、これしきのことで音を上げようというのかね？お主の力はその程度のものでござったのか？」

我々がワニア山に入ってまだ少しの時しか経っていない。
にも関わらず政武は弱気と思えるような言葉を吐いていた。

先刻までは
「忍者としての凄まじい力を見せつけてやる」
と、うそぶいていたのは一体どこの誰であろうか。
宗重はそう言いたげな表情をしている。

この挑戦的とも言える宗重の態度に政武が声を荒らげ始める。

政武
「なんじゃと、ふざけるなよ！俺様を見くびるでないわ！見ておれ！」

宗重の言葉に余程腹が立ったのであろうか、政武は歯を食いしばりながらぎらぎらとした目で宗重を睨みつけてそう叫んでいた。

宗重
「おぉ、そうであるか。まぁ、それほどの元気があればまだまだ大丈夫であろうな。政武よ、お前には期待しておるぞ。」

怒りの表情を見せる政武に対しても宗重はあくまでも冷静な口調であった。
やがてその様子に馬鹿らしくなったのか政武は平静になり、口を開く。

政武
「それにしても爺さんよ、御老体のあんたもなかなかやるじゃねえかよ。」

宗重は自身とは数倍もの歳が離れており、現時点でもかなりの高齢だ。
だが、そのような事を一切感じさせぬほどの機敏な動きに政武は酷く感心させられていたようである。

すると宗重が胸を張り上げながら答える。

宗重
「儂は生涯を忍びとして生きる人間である故、まだまだ若い者には負けぬわ！」

たとえどれほどの歳を取ろうとも、最期の最期までは忍者としてその生涯を全うして見せるべし。
それが忍びとして生まれて来た者の宿命である故に…
宗重が常々口にしていた言葉である。

こうした言葉から宗重がいかに凄まじい覚悟を持って忍者としての生涯を送っていたかが分かるであろう。

政武
「ふん、結構なこった。まぁ、俺の足手まといにならなけりゃなんでもいいがな。」

宗重
「お前は真に一言も二言も多き奴じゃな…」

宗重は、相変わらずぶっきらぼうな口調で吐き捨てるように言う政武に呆れた様子であった。
そして政武が宗重の肩を軽く叩いて言う。

政武
「爺さんよ、無駄口を叩くような暇があればさっさと進もうじゃねえか。ぼやぼやしておるなら俺が先に行くぜ。」

そう言うと政武は宗重を追い越し、前へと一気に進み始める。
なおも呆れた表情を宗重は見せていた。

だがその直後に何かに気付いたのであろうか、宗重は政武に対して大きな声を上げ始める。

宗重
「全く、お前という奴は…ん？はっ！いっ、いかん！政武よ、待て！止まれ！」

政武
「あん？何じゃ？そんなに慌ててどうしたっていうんだよ？」

宗重
「馬鹿者！早う止まれ！止まらぬか！」

すると次の瞬間、政武の周りで大きな音が鳴り響く。

政武
「ぐっ、ぐわあああぁぁぁぁっ！」

その叫び声と共に宗重の視界から政武の姿は一瞬にして消え去っていた。