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第9章 創天国の魂編
47.眠れぬ夜
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一方その頃、貞広ら幕府の者たちが滞在するセラージュの邸宅では貞広が一人庭に出て夜風に当たっていた。
今は真夜中の刻であり、他の者たちは既に寝静まっているようであった。
しばらくして貞広の姿を見かけた長継が声をかける。
長継
「おや、貞広殿。かような刻に外に出られてどうかなされましたかな?」
貞広
「これはこれは長継殿。どうも拙者は眠れなくてですな…」
貞広は不安げな表情をしてそう答えていた。
長継が軽く頷いて言う。
長継
「拙者もでございます。我が国となったセビカのことを考えるとつい…」
長継はかつて創天国において大名の地位にはいたが、やがて戦乱に巻き込まれた事でその居場所を無くしていた。
「こうなってしまった以上は最早、この国に別れを告げねばならぬ。」
そう悟った長継は単身で船に乗り、逃げるように創天国を去った。
海を漂流し続けた長継はやがてセビカ国に流れ着いていた。
現地の民たちによる献身的な態度に心を打たれた長継は、セビカで残りの人生を生きる事を決意。
こうして長継は名実ともにセビカ国の民となったのである。
だが、間もなくしてセビカ国王のアルド・セリアーの参謀役を務めていたカルロス・ヘルトが突如として反旗を翻すという事態が発生。
カルロスは独立勢力を築き上げ、今もなおセビカ国に対して侵攻を続けている。
母国となった地が再び戦乱の世へと戻ろうとしている。
これは、創天国で嫌というほど味わわせられた事が自身にも再び降り掛かって来るのではないか。
それ故に不安と恐れを常に感じているのだと長継は語っていた。
そうした長継の言葉を聞いてもなお浮かない様子であった貞広に対して問い掛ける。
長継
「貞広殿は、ワニアへと向かった宗重殿らを案じておる故のことにございますか?」
貞広
「はっ、その通りにございます。」
どうやら貞広は、先日に敵国の情報を得るためにその本拠地であるワニア島へと向かって行った宗重と政武らの身を案じているようであった。
潜入先のワニア島は、敵国の本拠地である故に警備が非常に厳しいと思われる地だ。
貞広が心配するのも無理は無い話である。
すると長継が凛とした態度で答え始める。
長継
「ご心配は無用。あの二人であらば、必ずや無事にワニアの情報を持ち帰って来られることにございましょう。拙者はそう思いますぞ。」
貞広
「じゃと良いのでございますが…」
宗重と政武。
この二人の力をもってすればワニアへの潜入などは容易い事であろう。
それは何とも根拠の無き長継による主観ではあったが、どうやら今の貞広の心には深く突き刺さっていたようである。
だが、安心の表情を見せつつあったそんな貞広に対してすぐさまに長継が神妙な表情へと切り替わって口を開く。
長継
「ですが、アテヌ・ブラウスという男には気を付けねばなりませぬ。奴はお主らが思っておるよりも曲者である故…」
貞広
「アテヌ・ブラウス…それほどまでに厄介な男と申されるのであるか…」
長継
「奴はカルロス・ヘルトの参謀を務めておって相当な切れ者であるとアルド様から聞いております。」
切れ者。
その言葉を聞いた貞広はふとある者の名前を口に出していた。
貞広
「切れ者の参謀…かつて三浦家に仕えておった黒松義政のような者であろうか…」
・黒松 義政(くろまつ よしまさ)
旧三浦幕府 三浦将軍家家臣。
秀晴、祐晴、継晴と三代の将軍に渡って仕え、幕府の権威を取り戻すべく奮闘していた。
政治、知略に非常に長けており、義政の存在が無ければ三浦幕府は秀晴の時代で滅亡していたであろうとまで言われるほどの実力の持ち主であった。
貞広
「宗重殿に政武殿よ、必ず生きて帰って来るのであるぞ…」
貞広は真っ暗な夜空に浮かんだ月を見つめ、祈るようにそう呟いていた。
今は真夜中の刻であり、他の者たちは既に寝静まっているようであった。
しばらくして貞広の姿を見かけた長継が声をかける。
長継
「おや、貞広殿。かような刻に外に出られてどうかなされましたかな?」
貞広
「これはこれは長継殿。どうも拙者は眠れなくてですな…」
貞広は不安げな表情をしてそう答えていた。
長継が軽く頷いて言う。
長継
「拙者もでございます。我が国となったセビカのことを考えるとつい…」
長継はかつて創天国において大名の地位にはいたが、やがて戦乱に巻き込まれた事でその居場所を無くしていた。
「こうなってしまった以上は最早、この国に別れを告げねばならぬ。」
そう悟った長継は単身で船に乗り、逃げるように創天国を去った。
海を漂流し続けた長継はやがてセビカ国に流れ着いていた。
現地の民たちによる献身的な態度に心を打たれた長継は、セビカで残りの人生を生きる事を決意。
こうして長継は名実ともにセビカ国の民となったのである。
だが、間もなくしてセビカ国王のアルド・セリアーの参謀役を務めていたカルロス・ヘルトが突如として反旗を翻すという事態が発生。
カルロスは独立勢力を築き上げ、今もなおセビカ国に対して侵攻を続けている。
母国となった地が再び戦乱の世へと戻ろうとしている。
これは、創天国で嫌というほど味わわせられた事が自身にも再び降り掛かって来るのではないか。
それ故に不安と恐れを常に感じているのだと長継は語っていた。
そうした長継の言葉を聞いてもなお浮かない様子であった貞広に対して問い掛ける。
長継
「貞広殿は、ワニアへと向かった宗重殿らを案じておる故のことにございますか?」
貞広
「はっ、その通りにございます。」
どうやら貞広は、先日に敵国の情報を得るためにその本拠地であるワニア島へと向かって行った宗重と政武らの身を案じているようであった。
潜入先のワニア島は、敵国の本拠地である故に警備が非常に厳しいと思われる地だ。
貞広が心配するのも無理は無い話である。
すると長継が凛とした態度で答え始める。
長継
「ご心配は無用。あの二人であらば、必ずや無事にワニアの情報を持ち帰って来られることにございましょう。拙者はそう思いますぞ。」
貞広
「じゃと良いのでございますが…」
宗重と政武。
この二人の力をもってすればワニアへの潜入などは容易い事であろう。
それは何とも根拠の無き長継による主観ではあったが、どうやら今の貞広の心には深く突き刺さっていたようである。
だが、安心の表情を見せつつあったそんな貞広に対してすぐさまに長継が神妙な表情へと切り替わって口を開く。
長継
「ですが、アテヌ・ブラウスという男には気を付けねばなりませぬ。奴はお主らが思っておるよりも曲者である故…」
貞広
「アテヌ・ブラウス…それほどまでに厄介な男と申されるのであるか…」
長継
「奴はカルロス・ヘルトの参謀を務めておって相当な切れ者であるとアルド様から聞いております。」
切れ者。
その言葉を聞いた貞広はふとある者の名前を口に出していた。
貞広
「切れ者の参謀…かつて三浦家に仕えておった黒松義政のような者であろうか…」
・黒松 義政(くろまつ よしまさ)
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秀晴、祐晴、継晴と三代の将軍に渡って仕え、幕府の権威を取り戻すべく奮闘していた。
政治、知略に非常に長けており、義政の存在が無ければ三浦幕府は秀晴の時代で滅亡していたであろうとまで言われるほどの実力の持ち主であった。
貞広
「宗重殿に政武殿よ、必ず生きて帰って来るのであるぞ…」
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