架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第9章 創天国の魂編

44.ワニアの魂

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航海を開始して数日後、船はようやく目的地であるワニア島の東端部に到着していた。

政武
「やっと着いたな…して、ここがワニア島とやらという所か。」

余程この数日間に退屈していたのであろうか、政武は陸に降り立つなり大きく伸びをしていた。
そんな政武を横目に宗重が落ち着いた様子で言う。

宗重
「うむ、そしてここはホミテの村じゃと長継殿から聞いておる。何でも、多くの島の原住民らがここには住んでおるらしい。」

・ホミテ村
ワニア島の東端部に存在する村。
ワニア島がセビカ国による支配下に置かれた事でワニア島は新たな文化をもたらし、大いに発展した。
だが一方で、セビカ国の文化に染まる事を良しとしないワニア島の先住民族であるワニア人たちはホミテ村へと移り住んだという。
その為、セビカ国とは異なる言語を現在も用いている者が多い。


※ 橙丸がホミテ村

ワニア島はセビカ国の大陸から離れた位置という事もあり、古くから独立国家として存在していた。
だが、今からおよそ百年ほど昔にワニア島は経済的破綻の危機に陥る事となる。

この事態を重く見たワニア島側は、セビカ国による援助を要請。
双方による話し合いの結果、ワニア島がセビカ国の支配下となる事で経済を復興させる事に合意。
こうしてワニア島は以後、セビカ国によって統治される事となる。

経済破綻の危機を回避できたという事もあり、多くの島民たちの生活は守られたのである。
しかしながら、セビカ国による支配を快く思わなかった島民たちも少なからずはいた。
そうした者たちが集まり、やがて一つの集団を形成する事となった。
それがこのホミテ村である。

政武
「要はセビカが肌に合わなんだ連中がここまで逃げてきた地、ということであろう。」

政武は率直な自身の意見を包み隠す事無くそう言っていた。
それに対して宗重は、しっかりとした口調で喋り始める。

宗重
「セビカの支配下に置かれてはおれど、この地に住む者たちはワニアの精神はしっかりと根付いておるということであろう。」

確かに現在のワニア島はセビカ国の支配下に置かれてはいる。
だが、ワニアで生まれワニアで育った島民たちの心までは完全に支配されてはいないはず。
ホミテ村という一つの村が存在している事が何よりの証拠であろう。
そうしたワニア民族としての誇りは今もなお生き続けている。
これは真に素晴らしき事では無いか。

宗重はそう政武に対して語りかけていた。
すると政武が退屈そうな表情を浮かべながら答える。

政武
「へっ、ものは考えようじゃな。まぁそんなことなぞどうでも良いわ。」

宗重による言葉を政武は軽くあしらった後、すぐに続けて宗重に対して声を上げる。

政武
「それよりも爺さんよ、早う俺たちの使命を果たしに行こうぜ!」

宗重
「うむ、そういたすかのう。」

すると突然、政武が真剣な表情をして呟き始める。

政武
「しかし、言葉も通じぬ相手と出くわした時を考えればややこしいことになるぜ…」

忍者としての任務を遂行する上で最も厄介な事。
それは、潜入の地で他の者と遭遇する事である。

仮にそのような事態が発生した場合は、相手と会話する事で忍者の身分を誤魔化す事も出来よう。
しかし、ここはお互いの言葉が通じない異国の地。
意思疎通が困難となる為、遭遇した相手に忍者である事を誤魔化すなどといった事が出来ないのである。

宗重
「確かに、ここは何が何でもいかなる相手にも気付かれずに切り抜けねばならぬな…」

宗重は深刻な表情をしてそう言ってはいたが、すぐに勇ましい表情へと切り替わった。

宗重
「じゃが、忍びである儂らであらば何も難しきことではござらぬであろう?」

その言葉を聞いた政武は胸を張り上げて声を上げる。

政武
「ふむ、それもそうであるな。最も、爺さんが足手まといにならぬか俺は心配だがな。はっはっはっ!」

宗重
「貴様という奴は…真に一言多い奴じゃのう、全く…」

宗重は苦笑いの表情を見せながらそう言っていた。
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