上 下
449 / 549
第9章 創天国の魂編

41.死してもなお

しおりを挟む
宗重と政武らを乗せた船はワニア島を目指して移動を続けている。
だが、先の長継による提案によって遠回りの航路を進んでいる為、到着までの目処は立っていない状態であった。

このことに業を煮やした政武は舵を切り、ワニア島の近くに船を移動させ始める。
焦る宗重をよそに落ち着いた態度で政武は懐からある物体を取り出し、船の前面部に向かって投げつける。
するとたちまち白い煙が吹き出し、それはやがて船全体にまで行き渡っていた。
煙は船を大きく包み込み、その姿を周囲から忽然と消してしまっていた。
その物体は、忍者の必須道具とも言える「煙幕」なのであった。

宗重
「それにしてもその煙幕は真によう出来ておるのう。」

宗重は一瞬にして自身たちの乗っている船の姿を周りから消し去ったこの煙幕に対して非常に関心を持っているようであった。
すると政武が淡々とした様子で答え始める。

政武
「あぁ、これか?これは村上島で作られた煙幕で、俺が忍びの修行をしておった時にちょいとばかし拝借したものじゃ。何でも、九条とかいう者が作ったと聞いておるわ。」

その言葉を聞いた宗重が思わず声を上げる。

宗重
「なに?九条じゃと?まさか…九条、九条信常殿であるか?」

政武
「ん?何じゃ爺さんよ、そいつのことを知っておるのか?」

宗重
「知っておるも何も、九条信常殿は我ら志太家の者であるぞ。」

・九条 信常(くじょう のぶつね)
元は村上島(現在の志栄島)の村上家に仕え、領内において様々な道具を作り出した発明家である。
後に志太家の志太祐藤による説得に応じて志太家へ寝返り、以後は志太家の家臣となった。
そこで様々な発明を行うことで志太家の天下統一事業に大きく貢献する事となる。
外河家との戦い(第二次墨山の戦い)に参戦し、自身が発明した天候を操る装置である雷神(らいじん)によって外河軍を大混乱に陥れる。
そして志太軍が墨山城を陥落した事を知った信常は、役目を果たしたと言い残してその場で死去したという。

政武
「ほほう、それまた奇遇じゃな。これが縁ってやつなのかねぇ?」

創天国とセビカ国から始まり志太家と村上家、志太家と木内家、そして木内家と九条家。
この奇妙な縁は、一体どこまで繋がっているというのであろうか。
政武は目には見えぬそうした「縁」について不思議げな表情を浮かべていた。

そして関心した様子で政武が口を開く。

政武
「しかし、かようなものを作るたぁ…その九条信常とやらは、真に大した奴じゃな。」

それを聞いた宗重は政武に対して大きな声を上げ始める。

宗重
「こら政武!少しは口を慎まぬか!信常殿はな、我ら志太幕府の創設に大いなる貢献をなされた御人にござるぞ!無礼なことを申すでない!」

九条信常は、数多くの発明を行う事で我が志太家による天下統一への大きな機会を作ったと言っても良い人物である。
そのような偉業を残した者に対して何たる口の聞きようであるか。
宗重には政武という一人の若造によって信常が軽く見られていたような言葉に感じたのであろうか、腹を立てている様子だ。

政武
「はいはい、分かりましたよ。まぁ、いずれにせよこうして近道の航路で島に向かえるのであらばその信常さんには感謝してはいるぜ。」

政武は軽くあくびをしながらそう答えていた。
だが後に発した言葉からもあるように、信常に対して感謝の気持ちは少なからずは持ち合わせてはいるようではあった。

宗重
「うむ…信常殿は、死してもなお儂らをお助けになられるわけか…信常殿、真に恩に着ますぞ。」

宗重は瞼を閉じ、亡き信常に対して感謝の意を込めながら頭を深く下げていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

処理中です...