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第9章 創天国の魂編

27.政武の望み

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先刻の件で一命をとりとめた政武は幕府の味方となった。
幕府は新たな味方を加え、今回の目的地セビカへと向かっている。

政武
「ええっと、この船は何という国に向かうのじゃったかの?確か、セ…セ…何じゃったか?」

首を傾げながら政武がそう言った。
どうやら目的地である国の名前を失念してしまったようであり、何とか思い出そうとしていた。
その問いかけに対して長継が答える。

長継
「セビカ。ドヴェルク殿と拙者の祖国、セビカにござる。」

すると政武は思い出したように声を上げた後に、真剣な表情をして言う。

政武
「おぉ!そうじゃったそうじゃった!それで、あんたらにお願いがあるんだが聞いてはくれぬか?」

宗重
「うむ?何じゃ?申してみよ。」

真剣な眼差しを宗重に向けながら続けて政武が喋り始める。

政武
「その、セビカとやらへ向かうまで俺に船の舵を取らせてくれんか?」

セビカへと向かう幕府の船。
その船の操縦を政武に任せて欲しいとの事であった。
思いもよらぬ政武の言葉に宗重らも声を詰まらせかけていた。

宗重
「ほう、これからお主が舵を取るとな…」

貞広
「何を急に申すかと思えば…かようなことを…」

そして貞広が険しい表情をして政武に対して詰め寄るように言う。

貞広
「政武殿よ、お主は自分が何を申しているか分かっておるのか?」

政武は幕府の味方となったとは言え、つい先刻前までは共に激しい戦いを交わした敵同士である。
そのような者があろう事か幕府の者に対して船の操縦を任せて欲しいと口にしている。
船の操縦を任せるという事はすなわち、幕府の者たち皆の命を政武に預ける事を意味すると言っても良いであろう。
これには貞広も怒りを通り越し、呆れ返った様子であった。

政武が自信に満ちた表情を見せて答える。

政武
「なに、ここは海賊衆の俺に任せておけば何も心配は無かろう?違うか?」

すると宗重が苦笑しながら政武に対して声をかける。

宗重
「まあ、海賊衆であるお主が船を進めるが適任ではあろうな。じゃが、先刻の嵐に遭って船を沈めてしまったのは誰であったかのう?」

確かに海賊衆の頭領として活動していた政武は、航海技術に長けてはいるであろう。
だが、先程の嵐の直撃を受けて自身の船を沈めてしまっている。
そうした失態を犯したうえで、船の操縦を任せて欲しいと懇願する政武を宗重は滑稽であると感じていた。
至極当然の事である。

政武
「うへぇ…爺さんよ、あんたはっきりと言うではないか…」

政武は苦虫を噛み潰したような顔をしてそう言っていた。
どうやら痛いところを突かれて返す言葉も出ないようである。

すると宗重は少し考え込み始め、しばらくした後に静かに口を開く。

宗重
「しかし、お主の心意気や良し。良かろう、少しばかしお主に任せてはみようではないか。」

政武の海賊衆としての力がいかほどなものなのであろうか。
その力を知る為にもここは一つ、政武に任せてみるのも悪くは無いであろう。
宗重はそう考えているようであった。

政武
「へへっ、ありがとよ爺さん!少しとは言わずに全て任せてくれとすぐにでも言わせてやるよ!」

そう言うと政武は船の舵を取りに早々にその場から離れて行った。

貞広
「全く、調子の良き男にございますなぁ…」

貞広は政武の威勢の良さに呆れた様子であった。
すると宗重が貞広に対して言う。

宗重
「これがあやつなりの罪滅ぼしのつもりでござろう。我が志太幕府に対してのな。」

幕府の者たちを安全に目的地であるセビカへと到着させて見せる。
政武にとって、これが幕府に対しての贖罪なのであろうと宗重は考えていたようである。
不器用な男、木内政武が見せる精一杯の罪滅ぼしである。

政武
「よーしお前たち、亀去島海賊衆の腕の見せ場ぞ!気を引き締めよ!」

舵を手にした政武は生き生きとした表情であった。
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