架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

18.海賊衆の意地

志栄島の東方沖では、亀去島海賊衆との戦いがなおも繰り広げられている。
戦況としては、両者共に一歩も退かずの攻防を繰り返しているといった具合である。

そうしているとやがて雨雲があちらこちらに現れ始めた。
どうやら天候は次第に崩れつつある様子だ。

長継
「むむっ、そろそろ雲がかかりはじめてきましたな…」

長続は空を眺めながらそう言っていた。
まるで灰のような薄黒い色をした雨雲がこちらに押し寄せて来ようとしている。

貞広
「雨雲か…ふむ、間もなく嵐が訪れようとしておる証拠にござるな。」

間もなくこの一体は激しい雷雨に見舞われ、海上は嵐で大荒れとなるであろう。
貞広は、この様子を見てこれからの天候の崩れに対して身構えている様子であった。

そして海賊衆の男たちもまた、その異変に気付き始めていた。

男
「はっ！お、お頭！もうじき嵐が吹くようにございますぞ！このままでは、船が沈むかも知れませぬぞ…」

間違い無くこの辺りは嵐によって大荒れとなるであろう。
危険を避ける為にも、早急にこの場から離れなければ…
海賊衆の男たちは、慌てた様子を見せていた。

しかし、政武は男たちの言葉には一切動じる事無く堂々たる態度を見せながら答える。

政武
「えぇい！お前たちに言われずとも分かっておるわ！じゃが、その前にあやつらを叩きのめしておかねば俺の気が済まぬ！」

男
「そ、それでは…我らはここを動かぬと…？」

政武
「そうじゃ。いかなる理由があろうとも、喧嘩の途中で相手に背を見せるなど恥！我ら亀去島海賊衆の意地を見せつけてやるのよ！」

嵐がこの場所に訪れようとしている事などは百も承知。
だが、政武はその場を離れようとは考えてはいなかったようである。

我らは幕府の者たちと喧嘩の真最中である。
今、この場で奴らを完膚なきまでに叩きのめさなければ気が済まないのだ。
それ故、喧嘩に勝利するまではたとえ嵐が来ようともこの場は決して動かぬ。
亀去島海賊衆としての意地を貫き通す為にも…

政武は男たちに対してそう声を上げ、幕府側への攻撃を継続する事を命じていた。

長継
「何とまぁ、嵐の中でも戦い続けるとな…政武という男は正気にござるか…」

この状況下に置かれてもなお攻撃を続けようとする政武の姿を見た長続は、呆れた様子でそう言っていた。
すると宗重が静かに口を開く。

宗重
「奴らも、海賊衆としての意地がござる故のことであろう…」

嵐が来る事も承知の上でなおもその場で戦いを続けると言うのだ。
それは確かに無謀とも言える行動だが、政武の意地が勝っていた故の結果であろう。

彼ら海賊衆は喧嘩上等の思想の元で活動しており、喧嘩が一旦始まれば勝敗がつくまでは戦い続ける。
そして「一時休戦」などと言った中途半端な言葉は彼らの辞書には存在しないのだ。
それ故に政武は迷うこと無く戦い続ける、という行動に出たのであった。

貞広
「意地、と申すか…全く、海賊の者どもは実につまらぬ意地を張るものであるな…」

貞広はなおも呆れた様子でそう言っていた。
すると政武がこちらに向かって大声を上げ始める。

政武
「おい、何をごちゃごちゃと言っておる！この亀去島海賊衆、貴様らをまとめて一気にかたをつけてくれようぞ！覚悟いたせ！」

政武は非常に興奮した様子であった。