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第9章 創天国の魂編

12.海上の脅威

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出港してから数刻の時が過ぎ、貞広らは志栄島の東方沖を進行中である。
そんな中、貞広の家臣の一人が慌てて報告に来た。
「我らの船に向かって来ようとする一隻の船を確認した。」

その報告に対し貞広は、呆れた様子を見せる
「航海を行ううえで他の船と出会う事も珍しくは無かろう。」
至極当たり前とも言える出来事を大層げに報告する家臣が貞広には理解できなかったからである。

だが、家臣が指差す方角を見た宗重は驚きの声を上げる。
それにつられるように貞広も振り向いた。
…その先に見えた光景に貞広もまた驚き始める。

貞広
「な、何という不気味な船なのじゃ…」

宗重
「趣味が悪いと申せばそれまでじゃが、見る者が見ればあまり気持ちの良きものではございませぬな…」

貞広と宗重らは思わずそう口にしていた。
形といい、模様といい、その船はとにかく異様な雰囲気を醸し出していたという。

それに対し、長継は冷静な様子で口を開く。

長継
「もしやあれは海賊衆の船、にありませぬか?かつて創天国に拙者がいた頃もかような不気味な船を見たことがございます故に。」

長継が村上家として村上島(現在の志栄島)を治めていた頃の話である。
村上家には海賊衆出身である坂上、明石の二家が家臣として仕えていた事もあってか、そのような船をよく目にしていたという。
それ故に、今の彼らの目の前に見える船が海賊衆のものであると長継は判断していたようだ。

宗重
「うむ、どうやらそのようにございますな。じゃが、我が藩内で見かける海賊衆とはちと違うな。」

貞広
「と、すれば我らがまだ知り得ぬ海賊衆ということになるか。厄介なことになりそうじゃな…」

現在、口羽家が治める志栄藩でも海賊衆は存在し、活動は続けられている。
これは、祐宗による
「創天国に住まう全ての民たちが平等かつ安全に暮らせる世を造るべし」
の言葉の元で政が執り行われている為である。

これは、山賊衆や海賊衆たちも例外では無い。
そうした者たちを幕府が保護する事で真の泰平の世が成り立っているという。

とは言え、衆による略奪行為や現地の民たちに危害を与えるといった行動は幕府によって制限されてはいるが。
これらの行為を認めれば無秩序となる事を容認してしまい、幕府が掲げる泰平の世に矛盾が生じてしまうからである。
彼らは幕府の管轄下となった事で、牙を抜かれた謂わば獣のような存在と言っても良いであろう。
こうした事からも、この時代における山賊衆は山の警備、海賊衆は海の警備、といった役割を果たす団体であったのでは無いかと思われる。

だが、幕府が未だ存在を知り得ぬ未知の衆にはそのような取り決めは当然ながら交わしてはいない事になる。
幕府の管轄外とあらば、略奪行為などの被害をこちら側が受ける可能性は充分にあり得る話だ。
貞広は、そうした事を案じている様子であった。

するとドヴェルクもまた驚いた様子を見せながら口を開く。

ドヴェルク
「我が国セビカにも海賊はいますが、これほどまでに威圧感のある船は見たことがありません。これが創天国の海賊なのか…」

ドヴェルクの祖国であるセビカも同じ島国という事もあってか、海賊は存在しているようである。
それは、今までにドヴェルクが見かけた船の中でも強烈な威圧感を放っていた。
何よりも、船を見た彼らが全員が驚きの余りに言葉を失うほどであったというから相当なものであった事が分かるであろう…

やがて海賊衆は、こちらに向かって弓を構えて矢を放つ仕草を見せ始めていた。

貞広
「やはり、奴らは我らの船に攻撃を加えるつもりか。」

宗重
「やれやれ、長継殿の申された通りそう簡単にセビカへと行かせてはくれぬようにございますな…」

宗重は面倒げな様子で嘆くようにそう言っていた。
すると貞広は気を引き締めて声を上げ始める。

貞広
「そうとあらばこうしてはおれぬ。皆の者を集めて直ちに戦闘態勢に入るのじゃ!」

貞広は勇ましい表情を見せていた。
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