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第9章 創天国の魂編

09.出港

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さらに数日後、長継らは貞広と宗重と共に志栄藩の徳葉海岸に集まっていた。
先日の謁見で志太幕府は、セビカに対して全面的に協力するという姿勢を祐宗が見せた。
その為の準備としてまずは国王であるアルドとの会見を行うべく幕臣である貞広らに渡航を命じたのであった。

やがて全員は出港の身支度を済ませたようであり、長継が恐縮した様子で口を開き始める。

長継
「我らの国での争い事に巻き込んでしまい、真に申し訳ございませぬ。」

創天国の者たちにとってセビカは縁もゆかりもない国だ。
それ故に、現在のセビカで起きている戦乱など知った事では無いはず。
ましてやその戦乱に幕府軍が介入する事などはあり得ないと言っても良いであろう。

長継
「そして、創天国として我が国セビカをお救いいただけるとのご返答には、真に感謝してもし切れぬ所存にございます。」

長継は貞広らに対して頭を深々と下げていた。
そしてドヴェルクも長継に同じく頭を下げ、感謝の言葉を述べ始める。

ドヴェルク
「私からも礼を申し上げます。本当にありがとうございます。」

すると貞広が毅然とした態度を見せて答える。

貞広
「上様からの命とあらば、我らがそれを果たすは当然である故のことにござる。」

セビカに味方し、援軍として幕府の者たちを派兵せよ。
これは将軍である祐宗、すなわちお上からの命令である。
幕府に仕えし身である者たちがお上からの命に従うは当然。
ただ、我らは将軍からの命令があった故にこうして動いているだけである。
貞広は、つっけんどんな態度をしていた。

貞広のその様子に長継らは少し気まずさを感じたのであろうか、しばらくの間に沈黙が続いた。
先程に長継自身が志太幕府に対して感じていた負い目について言及されたのであらば、無理も無いであろう。

やがて、その沈黙を破るかのように宗重が喋り始める。

宗重
「思えば、昔より我ら志太家の方たちは困っておられる者に対しては手を差し伸べて運命を共にしてこられた。それ故のことにござろうかな…」

貞広
「確かにそうではあるが、こたびの件はちとお節介ではござらぬか?まあ、あくまでも拙者個人の考えと申せばそれまでじゃがな。」

我ら志太家の精神、思想は確かに良き事ではあろう。
しかし、それも行き過ぎればただのお節介となってしまうのでは無いであろうか。
貞広は宗重の言葉に対し、少し棘のある言い方でそう述べていた。

それを聞いた宗重は、長継らに耳打ちをし始める。

宗重
「長継殿にドヴェルク殿よ。貞広殿はかようには申しておるが、根は祐宗様たちと同じ考えを持たれておる。それ故、気に病むでないぞ。」

貞広の父は、志太家の筆頭家老の吉江貞勝である。
貞勝は祐村、祐藤、祐宗と三代の当主に仕えてきた謂わば重臣である。

それ故に、他の家臣たちに比べて志太家の思想を大いに引き継いでいると言っても良いであろう。
こうした思想や魂と呼べる物は親から子へ、果てはその子孫まで…
貞勝の子である貞広の根底にも志太家の思想が必ずあるはず。
宗重はそう考えているようである。

長継
「いえ、貞広殿が申されるのは無理も無き故のことにございますので…」

そうしていると貞広は、一人そそくさと船に乗り込み始めて皆に対して声をかける。

貞広
「さぁ、ぐずぐずと申されずに早う出港いたそうではないか。」

相変わらず貞広は無愛想な様子であった。
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