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第8章 将軍への道程編

86.第二次墨山の戦い(26)

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政長と頼隆らは抜け穴によって墨山城の地下蔵への侵入に成功。
頼隆は先陣に立ち、兵たちに対して攻撃を促そうとしていた。

頼隆
「ようし、では一斉に城内部の兵たちに向けて攻撃じゃ!」

そんな頼隆の勇ましい様子を見た政長も続けて声を上げる。

政長
「我らも頼隆殿に続きまする!行くぞ、皆の者よ!」

そうして兵たちが地下蔵に一斉に侵入し始めた。
すると、間もなくして城内の兵が首を傾げて言う。


「やけに地下蔵が騒々しいのう…どうしたというのじゃ?」

兵は、地下蔵付近が何やら騒がしい様子である事に気付いた様子である。
そして不審に思った兵は、地下蔵への扉を開けた。
するとその瞬間、頼隆・政長と多数の兵たちが刀を構えている姿が兵の目に入り込んで来たのであった。


「ややっ、敵兵にござる!皆の者、出合え!出合え!」

地下蔵に構える兵たちの姿を見た兵は思わずそう声を上げた。
その声を聞きつけた外河軍の兵たちは大慌てで地下蔵へと向かい、たちまち応戦が始まった。

しかし、余りも突然過ぎる出来事に外河軍の兵たちは皆が混乱し始めている。
それ故に彼らは、頼隆らの攻撃をほぼ一方的に受けているような状態であった。

やがて、一人の外河軍の兵が声を上げる。


「いかん、我ら兵は混乱してこれではまともに戦えぬ!ひとまず、国輝様らにこのことを早う報告せねば!」

そう言うと兵はすぐさまにその場を離れ、国輝の元へと急いだ。
やがて国輝の耳に、志太軍らが侵入し始めて来たという事が届く。

国輝
「なっ、なに?志太軍と十部軍がこの墨山城に侵入してきたじゃと?」

国輝は、疑うような目をしながら兵に対してそう言った。
そして国時もまた、信じられぬと言った様子を見せながら口を開く。

国時
「しかし、奴らは一体どこから城内へ入ってきたというのじゃ?門は全て閉まっておろうに…」

外河軍は現在、志太・十部軍と籠城戦が繰り広げられている。
そして墨山城の城門は破壊されておらず、兵には未だ侵入されていないはずだ。
国時はそう認識していた為、兵の報告に対して非常に驚いた様子であった。

そして兵が続けて報告を行う。


「それが…我が城の地下蔵から兵たちが次々と出て来たのでございます…」

敵兵は地下蔵からぞろぞろと湧いて出てきたと兵は言っていた。
その報告を聞いた頼信が口を開く。

頼信
「もしや、抜け穴が…地下蔵にあったのではござらぬか?」

すると、何かを思い出したのか国輝が驚いた表情を見せて声を出す。

国輝
「抜け穴…はっ!もしやこれは、政長…東浦政長の仕業ではございませぬか?」

国輝は、政長の名前を口にしていた。

政長は、墨山城の改修に深く携わっていた。
国輝が、非常に精力的に改修作業に取り組んでいる彼の姿をたびたび見かけていたという。

ある時、政長が墨山城の前で深刻な表情をして悩んでいる姿を国輝が見かけて声をかけた。

国輝
「政長殿、一体何を悩んでおられるのですかな?」

その問いかけに政長はこう答えた。

政長
「墨山城は、守りの堅き城にございます。ですが、その堅さが拙者は心配にございます…」

墨山城は、他国の城とは比べ物にならぬ程の堅固さを誇っている。
しかし、果たしてその事に大手を振って喜んで良いものであろうか。
国輝は、政長の言わんとしている事がその時は理解できなかった。

そして政長の本意を今、この時に国輝は知る事となる…

墨山城は、敵軍が侵入する事などを想定した設備には非常に乏しかったと言われている。
完璧な防御力を誇る故に、そのような設備は不要であると皆が考えていたからである。
その為、ひとたび敵軍が城内に侵入した場合に外河軍は袋の鼠となる状態に陥る危険性をはらんでいた事になる。

恐らく政長は、そうした危険を問題視したうえで抜け穴を掘ったのだ。
それに、城造りの名手である政景の能力を引き継いだ政長であれば、抜け穴などいとも簡単に掘ってしまうであろう。

これはあくまでも国輝の憶測であり、事実であるかは自身もまだ分かっていない状態だ。
しかし、非常に説得力があったのか頼信もその事に対してはどうやら確信している様子であった。

頼信
「政長殿め、一体どういうつもりじゃ…真にいらぬことをしてくれたものよのう…」

頼信は顔をしかめてそう呟いていた。
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