架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

文字の大きさ
上 下
391 / 549
第8章 将軍への道程編

85.第二次墨山の戦い(25)

しおりを挟む

抜け穴を潜った政長と頼隆らは最奥部の壁に到達。
どうやらこの壁の先が墨山城の地下蔵に通じていると政長は言う。
やがて鶴嘴を手にした政長と兵たちの手によって壁は瞬く間に破壊される。
その先には、山積みになった兵糧があるのが見えていた。

頼隆
「真に、我が墨山城の地下蔵に通じておったのじゃな…」

政長らの手によって破壊された壁の先に通じる出口を見て頼隆がそう呟く。
すると政長が冷静な口調で答える。

政長
「頼隆殿の申される通り、ここは地下蔵にございます。」

先刻にも説明した通り、この抜け穴の出口は墨山城の地下蔵へと通じている。
なおも信じられぬ様子であった頼隆に対して政長は改めて説明していた。

状況を理解した頼隆は一人静かに地下蔵に入り、中の様子をうかがい始めた。
そうして少し経った後に頼隆は急いで政長らの元に戻り、興奮した様子で声を上げる。

頼隆
「むむっ?政長殿よ、こたびもまたと無き好機にござるぞ!」

政長
「好機、にございますか?はて、そう申されますのは?」

政長は首を傾げてそう言った。
疑問を抱いていた政長に対して頼隆が答える。

頼隆
「どうやら、ここには見張りの者がおらぬようじゃ。思うに、兵たちは志太軍の応戦で手一杯なのであろうな…」

何と、地下蔵には外河軍の兵の気配が全く感じられないという。
この余りにも拍子抜けな様子に目を疑っていたが、自身の中で納得した様子で頼隆はそう言っていた。

政長
「何たる事にございますか…外河家の御方らは、地下蔵の警戒をなされておらぬのですな…」

この地下蔵は、兵糧を貯蔵する目的で造られたものである。
とは言え、これは城内にある設備で自軍の命とも言える兵糧が蓄えられているのだ。
それ故に、敵からの攻撃に襲われるかも知れぬと思って少なからずの警戒は敷いても良いものであろう。
ましてや今は志太軍と戦の最中だというのに…

政長は、この不用心さに思わずそう声を漏らしていた。
すると頼隆は、その事について弁解するように口を開く。

頼隆
「まさか、この地下蔵に侵入する者などおるとは思わぬ故のことでござろう。真に不用心ではあるがな…」

現在の戦況を見ても分かる通り、墨山城は非常に堅固な城である。
それ故に、城内に敵が侵入する事などは全く想定していなかったのだ。

城の中に居れば敵の攻撃を完全に防ぐ事が出来る。
そうした安全神話的とも呼べる考えが外河家の人間たちの中に定着していたという事も関係しているのであろう。
いずれにせよこうした考えは不用心極まりない事に間違いは無く、あまり良い話では無いが。
頼隆は曇った表情を見せてそう語っていた。

すると政長が引き締まった表情をして言う。

政長
「ですが、今は好機であることに感謝でございますな。では、ここを拠点に一斉攻撃といきましょうぞ。」

不用心である事はさて置き、結果的には今の政長らの軍勢にとって有利なものになった事は喜ばしい事である。
政長はそう言った後に、これより全軍での攻撃を行う事を促していた。

頼隆
「うむ、そういたすか。では…」

そして頼隆は刀を抜き、兵たちに対して声をかける。

頼隆
「ここから先は我が先頭に立つ故、皆の者は続かれよ。良いな?」

兵たちもまた引き締まった表情を見せ始めていた。
しおりを挟む
佐村孫千Webサイト
https://samuramagosen.themedia.jp/
感想 18

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの魔術師と魔神

モモ
ファンタジー
平凡以下の成績しかなかったはずの坂本・翔護の元に桜魔魔術学院から推薦入学の話が来た事により、彼の運命は大きく変わった。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。 タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。 小説家になろうでも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n5715cb/ カクヨムでも公開してします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500 ●現状あれこれ ・2021/02/21 完結 ・2020/12/16 累計1000000ポイント達成 ・2020/12/15 300話達成 ・2020/10/05 お気に入り700達成 ・2020/09/02 累計ポイント900000達成 ・2020/04/26 累計ポイント800000達成 ・2019/11/16 累計ポイント700000達成 ・2019/10/12 200話達成 ・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成 ・2019/06/08 累計ポイント600000達成 ・2019/04/20 累計ポイント550000達成 ・2019/02/14 累計ポイント500000達成 ・2019/02/04 ブックマーク500達成

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...