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第8章 将軍への道程編
85.第二次墨山の戦い(25)
しおりを挟む抜け穴を潜った政長と頼隆らは最奥部の壁に到達。
どうやらこの壁の先が墨山城の地下蔵に通じていると政長は言う。
やがて鶴嘴を手にした政長と兵たちの手によって壁は瞬く間に破壊される。
その先には、山積みになった兵糧があるのが見えていた。
頼隆
「真に、我が墨山城の地下蔵に通じておったのじゃな…」
政長らの手によって破壊された壁の先に通じる出口を見て頼隆がそう呟く。
すると政長が冷静な口調で答える。
政長
「頼隆殿の申される通り、ここは地下蔵にございます。」
先刻にも説明した通り、この抜け穴の出口は墨山城の地下蔵へと通じている。
なおも信じられぬ様子であった頼隆に対して政長は改めて説明していた。
状況を理解した頼隆は一人静かに地下蔵に入り、中の様子をうかがい始めた。
そうして少し経った後に頼隆は急いで政長らの元に戻り、興奮した様子で声を上げる。
頼隆
「むむっ?政長殿よ、こたびもまたと無き好機にござるぞ!」
政長
「好機、にございますか?はて、そう申されますのは?」
政長は首を傾げてそう言った。
疑問を抱いていた政長に対して頼隆が答える。
頼隆
「どうやら、ここには見張りの者がおらぬようじゃ。思うに、兵たちは志太軍の応戦で手一杯なのであろうな…」
何と、地下蔵には外河軍の兵の気配が全く感じられないという。
この余りにも拍子抜けな様子に目を疑っていたが、自身の中で納得した様子で頼隆はそう言っていた。
政長
「何たる事にございますか…外河家の御方らは、地下蔵の警戒をなされておらぬのですな…」
この地下蔵は、兵糧を貯蔵する目的で造られたものである。
とは言え、これは城内にある設備で自軍の命とも言える兵糧が蓄えられているのだ。
それ故に、敵からの攻撃に襲われるかも知れぬと思って少なからずの警戒は敷いても良いものであろう。
ましてや今は志太軍と戦の最中だというのに…
政長は、この不用心さに思わずそう声を漏らしていた。
すると頼隆は、その事について弁解するように口を開く。
頼隆
「まさか、この地下蔵に侵入する者などおるとは思わぬ故のことでござろう。真に不用心ではあるがな…」
現在の戦況を見ても分かる通り、墨山城は非常に堅固な城である。
それ故に、城内に敵が侵入する事などは全く想定していなかったのだ。
城の中に居れば敵の攻撃を完全に防ぐ事が出来る。
そうした安全神話的とも呼べる考えが外河家の人間たちの中に定着していたという事も関係しているのであろう。
いずれにせよこうした考えは不用心極まりない事に間違いは無く、あまり良い話では無いが。
頼隆は曇った表情を見せてそう語っていた。
すると政長が引き締まった表情をして言う。
政長
「ですが、今は好機であることに感謝でございますな。では、ここを拠点に一斉攻撃といきましょうぞ。」
不用心である事はさて置き、結果的には今の政長らの軍勢にとって有利なものになった事は喜ばしい事である。
政長はそう言った後に、これより全軍での攻撃を行う事を促していた。
頼隆
「うむ、そういたすか。では…」
そして頼隆は刀を抜き、兵たちに対して声をかける。
頼隆
「ここから先は我が先頭に立つ故、皆の者は続かれよ。良いな?」
兵たちもまた引き締まった表情を見せ始めていた。
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