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第8章 将軍への道程編
83.第二次墨山の戦い(23)
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墨山城の籠城戦の最中、政長と頼隆の軍勢は戦場を一旦離脱。
軍勢は政長の導かれるままに進み、やがて城から離れた場所にある井戸に到着。
この井戸は、かつて政長が墨山城の改修を行った際に極秘で城への抜け穴を掘っていたと言う。
政長
「好機…にございますか?」
政長が先程の頼隆が放った「好機」という言葉に対してそう聞き返す。
すると頼隆が答え始める。
頼隆
「うむ、この抜け穴の存在を知る者は拙者と政長殿しか知らぬのであろう?」
政長
「なるほど、いわれてみれば確かにそうでございますな。」
頼隆
「拙者が知らぬということは、拙者以外の外河家の者も当然知らぬということじゃ。」
この抜け穴は、政長自身が極秘で掘ったものである。
本来であらば完成後に頼隆に対してその旨を報告するつもりであった。
しかし、仮に敵にその存在を知られた場合の事を政長はふと考えた。
もし、その事が発覚すれば敵はこれ幸いとばかりに墨山城へいとも簡単に侵入できてしまうのだ。
外河家の者たちを安全に逃がす為のものがかえって仇になるいわば本末転倒な話だ。
そうした事を改めて危惧し始めた政長は、外河家の人間に報告せずに抜け穴の存在を完全に隠蔽する事にしたのである。
その結果、この抜け穴は誰にも知られる事無く今までに至っている。
これは、敵軍である外河軍に対して不意打ちを行う事が出来るというわけである。
これを好機と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
頼隆の気持ちは非常に高揚していた。
頼隆
「政長殿、早急に案内をお願いいたす!」
政長
「はっ、では我に続いてくだされ!」
そうして政長たちは井戸へと入っていった。
井戸の中は雑草などが生い茂っており、皆は手にした刀を振りつつ進み始めている。
政長がその存在を隠蔽した事により、一切の手入れを行わなかった為であろうか。
それはまるで廃墟のように不気味な様子であったと言う。
頼隆
「それにしても政長殿よ、かような物をよく掘ったのう…」
頼隆は、感心した様子で政長に対して口を開く。
すると政長が真剣な表情をして答える。
政長
「墨山城が堅城であるが故に、拙者は案じておったのでございます。」
堅城として周辺各国から恐れられる存在であった墨山城。
しかし、果たして今後もその存在は揺るがぬであろうか?政長はふと疑問に思った。
確かに創建時から現在に至るまでこの墨山城は、敵の手に落ちた事は一度たりともない。
だが、今は何が起こるか分からぬ戦国の世。
当時は安泰と思われていた大名家などが次々と滅びゆく世相を見た政長は、「絶対」という事は有り得ぬと感じていたのである。
頼隆
「完璧なものなどはこの世の中においてはあらず、か。うむ、確かに政長殿の申す通りであろうな…」
外河家の当主であるにも関わらず家臣に叛かれた自身の立場を考えていた頼隆は、深く納得している様子だ。
そして続けて頼隆が言う。
頼隆
「じゃがまさか、この抜け穴を使って我の城を攻め落とすことになろうとはな…ふっ、真に何が起きるか分からぬ世であるのう…」
この抜け穴の本来の目的は、あくまでも敵軍から外河家の者たちを救う為に作られたものである。
しかし、今回の戦によって全く逆の目的に使用される事となろうとは誰が考えていたであろうか。
まったくもって実に皮肉な話である事を頼隆は嘆いていた。
やがて政長らが地下道を潜って進んだ先には壁が立ち塞がっていた。
行き止まりであろうか?
すると政長は、その壁の前で足を止めて言う。
政長
「頼隆殿、この壁の向こうが墨山城の地下蔵にございます。」
どうやらこの壁の先は、墨山城の内部へと通じているようである。
頼隆
「ほう、ここから先が我が墨山城に続いておるのじゃな…」
頼隆は神妙な顔つきをしてそう言っていた。
軍勢は政長の導かれるままに進み、やがて城から離れた場所にある井戸に到着。
この井戸は、かつて政長が墨山城の改修を行った際に極秘で城への抜け穴を掘っていたと言う。
政長
「好機…にございますか?」
政長が先程の頼隆が放った「好機」という言葉に対してそう聞き返す。
すると頼隆が答え始める。
頼隆
「うむ、この抜け穴の存在を知る者は拙者と政長殿しか知らぬのであろう?」
政長
「なるほど、いわれてみれば確かにそうでございますな。」
頼隆
「拙者が知らぬということは、拙者以外の外河家の者も当然知らぬということじゃ。」
この抜け穴は、政長自身が極秘で掘ったものである。
本来であらば完成後に頼隆に対してその旨を報告するつもりであった。
しかし、仮に敵にその存在を知られた場合の事を政長はふと考えた。
もし、その事が発覚すれば敵はこれ幸いとばかりに墨山城へいとも簡単に侵入できてしまうのだ。
外河家の者たちを安全に逃がす為のものがかえって仇になるいわば本末転倒な話だ。
そうした事を改めて危惧し始めた政長は、外河家の人間に報告せずに抜け穴の存在を完全に隠蔽する事にしたのである。
その結果、この抜け穴は誰にも知られる事無く今までに至っている。
これは、敵軍である外河軍に対して不意打ちを行う事が出来るというわけである。
これを好機と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
頼隆の気持ちは非常に高揚していた。
頼隆
「政長殿、早急に案内をお願いいたす!」
政長
「はっ、では我に続いてくだされ!」
そうして政長たちは井戸へと入っていった。
井戸の中は雑草などが生い茂っており、皆は手にした刀を振りつつ進み始めている。
政長がその存在を隠蔽した事により、一切の手入れを行わなかった為であろうか。
それはまるで廃墟のように不気味な様子であったと言う。
頼隆
「それにしても政長殿よ、かような物をよく掘ったのう…」
頼隆は、感心した様子で政長に対して口を開く。
すると政長が真剣な表情をして答える。
政長
「墨山城が堅城であるが故に、拙者は案じておったのでございます。」
堅城として周辺各国から恐れられる存在であった墨山城。
しかし、果たして今後もその存在は揺るがぬであろうか?政長はふと疑問に思った。
確かに創建時から現在に至るまでこの墨山城は、敵の手に落ちた事は一度たりともない。
だが、今は何が起こるか分からぬ戦国の世。
当時は安泰と思われていた大名家などが次々と滅びゆく世相を見た政長は、「絶対」という事は有り得ぬと感じていたのである。
頼隆
「完璧なものなどはこの世の中においてはあらず、か。うむ、確かに政長殿の申す通りであろうな…」
外河家の当主であるにも関わらず家臣に叛かれた自身の立場を考えていた頼隆は、深く納得している様子だ。
そして続けて頼隆が言う。
頼隆
「じゃがまさか、この抜け穴を使って我の城を攻め落とすことになろうとはな…ふっ、真に何が起きるか分からぬ世であるのう…」
この抜け穴の本来の目的は、あくまでも敵軍から外河家の者たちを救う為に作られたものである。
しかし、今回の戦によって全く逆の目的に使用される事となろうとは誰が考えていたであろうか。
まったくもって実に皮肉な話である事を頼隆は嘆いていた。
やがて政長らが地下道を潜って進んだ先には壁が立ち塞がっていた。
行き止まりであろうか?
すると政長は、その壁の前で足を止めて言う。
政長
「頼隆殿、この壁の向こうが墨山城の地下蔵にございます。」
どうやらこの壁の先は、墨山城の内部へと通じているようである。
頼隆
「ほう、ここから先が我が墨山城に続いておるのじゃな…」
頼隆は神妙な顔つきをしてそう言っていた。
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