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第8章 将軍への道程編

58.交渉の末

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頼隆と宗重が十部国無事に到着し、十部義継との面会を果たす。
そこで頼隆に志太家と同盟を結ぶという話を持ちかけたところ、義継はこれを拒否。

何度も何度も同盟の締結を義継に対して訴えかける頼隆。
それを見かねた義継は、話だけでも聞こうと耳を傾ける事にしていた。

義継
「その前に頼隆殿、一つ聞いてもよろしいか?」

頼隆
「はっ、何でございましょう。」

義継が不思議そうな表情を浮かべながら言う。

義継
「お主は何故に外河家を捨ててまでもして志太家の味方をしておるのじゃ?理解できぬわ…」

義継の言う事は、最もである。
頼隆は墨山国の大名、すなわち国の頂点に立って治めるべき存在の人間だ。
その大名と言う身分をあろうことかあっさりと捨て去って他国、それも敵国の家臣に寝返ったのだ。
この理解し難い頼隆の一連の行動に対して義継がその理由を問い詰めていた。

すると頼隆が静かな口調で答え始める。

頼隆
「そうせざるを得られぬ事情が拙者にはござった故の話じゃ。今は、それしか申せませぬ…それしか…」

頼隆は、今回の経緯については多くを語りたくは無い様子であった。
いや、語れなかったと言った方が良いであろうか。

仮に真実を述べたとするとその事実に十部家は混乱し、家臣たちを悩ませる事となるであろう。
十部家家臣の全員が頼隆の言う事を信じてくれない場合だって有り得る。
そうすれば十部家の家中において志太家と外河家それぞれを支持する派閥ができ、十部国は崩壊しかねない。
こうした事を危惧してか、頼隆はただただ言葉を濁すような返答しかできなかったのである。

義継
「事情じゃと?その事情とやらの結果、かような今の同盟の話になったと申すか?全くもって話になりませぬな…」

どうやら頼隆のはっきりとしない態度に対して呆れ返った様子である。
そして続けて義継が言う。

義継
「お主の話は聞くまでも無きことがよう分かったわい。何故に我ら十部が危なき橋を渡ってまでもして志太家などに寝返らねばならぬのじゃ。」

先程までは頼隆の話を聞く態度を示していた義継ではあったが、義継の曖昧な返答を受けた事により以後の話は聞く価値は無いと判断していた。
そして義継は、頼隆にとどめを刺すかのように言う。

義継
「国を治めし者であらば、拙者の気持ちはお主も良く分かっておるであろう。違うか?」

頼隆
「ぐっ、それは…返す言葉もござらんな…」

国を守る為には時として保身的にならなければいけない事もある。
家名を存続させる為であらば、例えそれが不本意であろうとも強き者に従う事もまたしかり。
義継は皮肉を込めてそう言い放ち、頼隆はぐうの音も出ない様子であった。

義継
「つまりは、そういうことじゃ。分かったら早々に立ち去られよ!」

義継は頼隆らに対して強い口調でそう言った。
それに対し頼隆は、あくまでも冷静な様子で言う。

頼隆
「幾つか義継殿に申しておきたいことがございます。それを申せば拙者たちは去ります故、どうかお耳汚しをば…」

義継
「ほう、この期に及んでまだ申すことがござると?分かった、そこまで申すのであれば聞こうではないか。」

頼隆
「はっ、それでは…」

頼隆は義継に対して話し始めていた。
ものの数分程度であろうか、一方的な頼隆による話が行われていた。

そうして喋り終わった頼隆は、義継に頭を深々と下げ始める。

頼隆
「良き返事をいただけなく真に残念ではござるが、致し方ありませぬな。それでは失礼いたす。」

そう言うと頼隆と宗重らは十部城を後にした。
こうして志太家と十部家との同盟締結の交渉は決裂したのであった。

やがて二人が去った後に義継が首を傾げながら呟く。

義継
「それにしても、頼隆殿は何故にあのようなことを申しておったのじゃろうな…まあ良いわ。」

義継は、先程に頼隆が話していた内容に何やら引っかかるような様子であった。
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