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第8章 将軍への道程編

56.君主たる者

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志太家では頼隆の申し出により十部家との交渉策を開始。
しかし、頼隆が単身のみで十部国へ移動するには危険と感じた祐宗は、宗重も同行させるように命じた。
頼隆と宗重の二人は、八光御所を出発していた。

その道中で宗重が頼隆に対して言う。

宗重
「それにしても頼隆殿よ、実に思い切ったことをしましたなぁ。」

国を治める大名が自ら出向き、他家の大名家の家臣に仕官するという類を見ない出来事に宗重は驚いている様子だ。
頼隆が堂々とした態度で答える。

頼隆
「全ては墨山国の民たちを守る為にございます。」

宗重
「民たちの為、か…まさに国を治めし者の鑑でござるな。」

民たちを守る為。
頼隆のその言葉に宗重は感服した様子であった。

すると、頼隆が宗重に対して問いかける。

頼隆
「そういえば、宗重殿は何故に志太家にお仕えになられたのでござるかな?」

宗重はその場で足を止めて答え始める。

宗重
「拙者の主君であった徳葉城城主 平塚元阿弥様のご意向に従ったことがそもそもの始まりにござる。」

・平塚 元阿弥(ひらつか もとあみ)
元は村上家に家臣として仕えており、徳葉城主であった。
やがて志太家による村上領への侵攻(細野の戦い)が始まるとすぐに志太軍へと寝返り、細野城主の明石忠益を共に攻めた。
その後は志太家の配下となった為、元阿弥の家臣らもこれに従った。

宗重は、細野の戦いにおいて本来は村上軍として従軍する予定だったのだ。
しかし、城主であった平塚元阿弥が突如として志太家の寝返りを口にする事で状況は一変する。
実はこの時既に元阿弥は村上家の滅亡を予測していたようで、自身の配下や領民を路頭に迷わせない為の行動であったという。

宗重
「実を申すと、拙者は志太家に仕えるなどということは始めは考えてもおらなかった。」

宗重は当初、平塚軍が志太家に降伏するという事に対しては反対の意向を示していたという。
しかしそれは元阿弥によって説得され、結果的に宗重は使者として祐藤のもとに送り込まれた。
そして宗重が平塚軍による志太家への寝返り意向を伝えたところ、これを祐藤が受け入れた。
それ以後、平塚元阿弥とその家臣たちは志太家の家臣となり今に至る。

宗重
「今は、志太家に仕えしことを誇りに思うておるのじゃ。志太家こそが真の君主と申しても良いであろうな。」

戦国の世においては敵方の武将が降伏して新たに家臣として採用された場合、今までに築いた地位は全て捨て去る事となる。
それ故、例え家老の身分であったとしてもその家では一番低い身分として新たに仕えなければならない事が世の常であった。

しかし、祐藤はその常識を根底から覆した。
新たに志太家として迎え入れた元阿弥をそのまま徳葉城の城主として治めさせる事を許した。
これには元阿弥は大変驚いたという。
そして同時に祐藤に対して並々ならぬ恩義を感じ、深い忠誠心を抱く事となったのである。

宗重
「我らのことをそれほどまでに考えてくださった御方は、祐藤様が初めてでござった故にな。」

他の大名家に比べようが無いほどに柔軟な登用制度。
それに加わって大名である祐藤による家臣たちへの徹底された配慮。
こうした好環境が整った志太家に仕えて良かった、と宗重は心から思っている様子だ。

頼隆
「なるほど、かくいう拙者も今は宗重殿と同じような気持ちにございますぞ。」

頼隆もまた、志太家に対して並々ならぬ恩義を感じているようであった。

宗重
「どうやら志太家の御方たちは、目には見えぬ素晴らしき魅力というものがござるのでしょうかな。」

頼隆
「全くにございます。それ故に、志太家が天下を取らば泰平の世は未来永劫続くこととなるでしょうな。」

二人は志太家に対して称賛の声をあげていた。
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