架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第8章 将軍への道程編

53.歪曲された事実

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志太家においての評定で外河家の動向を知った義秀(頼隆)は、影で国輝が操っている事を確信した。
それを受けて家臣たちの前で自身の身分を明かし、外河頼隆として墨山国を救うべく国輝と戦う決意をあらわにしていた。
やがて頼隆が志太家の家臣として仕官したという事実が領内にも次第に知れ渡る事となった。

それからさらに数日後、墨山国でもその事は噂としてだが広まり始めていた。

国時
「国輝様、国内では頼隆が志太家に仕官したとの噂が広まっておりますぞ。」

慌てた様子で国時は国輝にそう言っていた。
国輝が面倒そうな表情を浮かべていた。

国輝
「分かっておるわい。えぇい!頼隆よ、真に思い切ったことをしてくれたものよな…」

頼隆は生きていた。
その事実があらわになった今、国輝は厄介な事になったと頭を抱えている様子であった。

国時
「して、いかがなさいましょうか?皆は混乱し始めておりますぞ…」

なおも国時は慌てふためいた様子を見せていたが、国輝は堂々たる態度をしている。

国輝
「国時よ、狼狽えるでない。恐らく、そのことについて家臣たちが皆集まるであろう。その時に儂が上手くごまかして混乱を鎮めようぞ。」

そしてその翌日、頼信は家臣たちを緊急で墨山城に呼び集めていた。
皆が揃ったところで頼信が口を開く。

頼信
「皆に集まってもらったのは他でもない。外河家当主先代であり我が父の頼隆が志太家に仕官し、この墨山国を狙っておるという噂についてじゃが…」

すると国輝がすかさず声を上げる。

国輝
「はっ、頼信様。そのことにございますが、拙者が放った忍によって詳しき情報が入って参りました。」

国輝は、配下の忍によって志太家に関する有力な情報が手に入ったと説明していた。

頼信
「ほう、忍を放っておったとな。して、その詳しき情報とはどのようなものである?申されてみよ。」

国輝は深刻そうな表情を見せながら口を開く。

国輝
「真に信じ難きことなのですが、頼隆様はこの墨山国を見限ったとのことにございます。」

頼信
「な、何じゃと?父上が我が墨山国を見限ったじゃと?」

国輝
「はい。拙者が放った忍がかような情報を持ち帰って来ました。拙者もにわかには信じ難きことではございますが、どうやら真のことにございます…」

国輝は、次のような事を頼信に対して報告し始めた。

①頼隆が恐れをなして単身で逃亡
本来、頼隆は志太家の傘下に加えてもらうべく八光御所を目指していた。
だがその道中で気変わりを起こして外河家を最後まで守るという決意をした為、再び墨山城へと帰還。
家臣たちに対して外河家の意地を貫き通すという覚悟を見せていた。
しかし、数日経った後に自家と志太家の国力差に怖じ気付いた頼隆は、衝動的ではあったが単身で逃亡を図った。

②影武者を用いて頼隆が暗殺されたように装った
逃亡してしばらく経った後、自身は暗殺された事にして身の安全を確保しようと考え始める。
そこで頼隆は影武者である人間(源五郎)を殺害し、頼隆の存在を消してしまうように図った。

③身分を偽って志太家に仕官
影武者の殺害後は何食わぬ顔をして志太家を訪れる。
その際に祐宗と接触し、自分は大村家の遠縁であると身分を偽って仕官する。
祐宗はこの男が頼隆であるという事を見透かしてはいたが、外河家攻略の為の有力な人材となり得ると考えた為に迷わず登用したという。

頼信
「あの父上が…何故じゃ…何故なのじゃ…」

頼信は信じたく無かった。
だが、これは紛れも無き事実であるという情報が現にこうして入って来ている以上、受け止める他に無かった。
そして同時に、臆病者としての烙印を押されてまでしても単身で逃亡を図ったという自分勝手な父 頼隆に対して情けなく思っている様子だ。
最もこれは、国輝が都合の良いように話を大きく歪曲させているという事実ではあるが。

すると国輝は、あくまでも冷静な態度を貫いて頼信に対して言う。

国輝
「頼信様、この事実をお受け止めになられるのはさぞかし辛きことにございましょう。しかし、このまま黙っておれば墨山国の民たちは志太家によって滅ぼされてしまいましょうぞ。ここは心を鬼にして頼隆様、いや頼隆を討つしか他にございませぬ。」

これに続いて国時も声を上げる。

国時
「拙者も国輝様のご意見に賛同いたす。我ら外河家の者たちが墨山国を守らずして誰が守りましょうか。」

すると他の家臣たちも我も我もと国輝の意見に賛成の意向を示し始めていた。
そして国輝が頼信を真剣な眼差しで見つめながら言う。

国輝
「全ては国を守る為にございます故。頼信様、どうかご決断を!」

頼信が静かに口を開き始める。

頼信
「うむ…分かった。国輝殿の申されておるとおり、この墨山国を守る為に我ら外河家は一切の私情を捨てて戦おうではないか。」

こうして外河家では、敵となった頼隆に対して毅然として立ち向かうべく決意を共にする事となったのである。

国輝
「ふっふっふっ…どうじゃ国時よ、上手くいったであろう?」

国時
「流石は国輝様にございますな。これで我らも心置きなく頼隆を始末できましょうぞ。」

二人は共に下品な笑い声を上げていた。
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