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第8章 将軍への道程編

49.取込の画策

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外河家では評定が終わり、翌日から早速新しい政策が執り行われる事となった。

国輝が提案した策。
自身が野党の頃に部下として従えさせていた者たちを中心として国内の警備隊を結成。
その警備隊は、敵国である志太家による攻撃の警戒及び自国内の治安維持に当たらせた。
しかしそれはあくまでも名目上の話であり、国輝らが主となり外河家を操る事が本来の狙いであった。

国時
「これで外河家は我らの意のままに動かせられるというわけにございますな。」

国輝の本意を知った国時が嬉しげな表情を浮かべてそう言った。
すると国輝は軽く相槌を打った後に答える。

国輝
「うむ、その通りというわけじゃ。しかし、何も儂らは外河家だけの力で志太家とやりあうつもりは無いでな。」

国時
「国輝様、それはどういうことにございましょうか?」

国輝
「十部国じゃ、十部家の十部義継を使うのじゃ。」

・十部国(とべこく)
墨山国の東側に隣接する国。
十部の国名は、豪族である十部家がこの地を治めていた事に由来する。
十部城を居城とし、代々の十部家当主による政治を執り行われていた。
しかし後に隣国である外河家との関係が悪化し、敵対関係となる。
やがて外河家が優勢となった頃、十部家に対して外河家の人間を取り入れさせる事を条件として不戦同盟の締結を提案し、十部家はこれを受け入れた事で両家との争いは終結。
現在もなお同盟は継続されている。

・十部義継(とべ よしつぐ)
現在の十部国を治める十部家の当主。
先祖は十部家の養子となり、以後は十部家の家督を相続する事となった十部景継。

・外河頼景(そとかわ よりかげ)
初代墨山国守護大名 外河頼光の七男として生まれる。
元服して間もなく墨山国十部城の十部家に養子として出され、十部家の家督を相続させる事で両家との争いを終結させた。
その際に十部景継(とべ かげつぐ)と名を変え、十部家の当主となった。


※ 黄丸が十部城

どうやら国輝は、同盟国である隣国の十部家を完全に外河家の傘下に取り込む事を考えているようだ。
そして国輝は、更に続けて言う。

国輝
「それに、十部家には東浦家の者が仕えておろう。あやつも味方に取り込んでおけば志太家など敵ではござらん。」

・東浦政長(ひがしうら まさなが)
十部家家臣。
父は祐信の乱の首謀者であった東浦政景とされている。
祐藤によって乱が鎮圧されると政長は幼少であったという事からの温情により斬首からは逃れるが、後に志太家から追放処分を言い渡される。
政長は、流れ着いた墨山の奥深い森で幼年期を過ごす事となる。
やがて青年に成長した頃に十部義継と出会い、十部家に登用される。
父譲りの築城の才能を発揮した政長は同盟国である外河家の居城 墨山城の改築の依頼を受け、これに成功を収めた事で若くして家老の座に就く。
また、十部家仕官以前の頃には様々な逸話があったとされており、現代にまで語り継がれる物語「墨山怪奇伝(すみやまかいきでん)」の主人公のモデルとしても知られている。

・墨山怪奇伝(すみやまかいきでん)
六条半四郎(ろくじょう はんしろう)による創作物語。
主人公である長兵衛が幼少期を過ごした墨山の地で山賊や妖怪などと戦いを繰り広げて成長していく姿を書き記している。
主人公のモデルは東浦政長とされているが創作の部分が多い為、史実とは異なる部分が多くあったという。
また、作者である半四郎は天下の発明家と名高い九条信常の子孫とされているが、はっきりとした確証は無い。

これを聞いた国時は、思い出したように口を開く。

国時
「東浦…はっ、志太祐信の軍に加勢した政景のことにございますか。」

国輝
「うむ、そうじゃ。あやつの息子が今では十部家の家臣でしかも家老ときた。」

国時
「それはそれは、真に心強いですな。」

正長の父は、かつて志太家において築城の才能を存分に発揮した東浦政景である。
彼は白河家の居城であった池山城を改築させ、志天城という見事な城を造り出すなど功績を残している。

だが、先代の主君 志太祐村の兄弟であった志太祐信の謀反に加担した故に自身の破滅への階段を登る事となる。
祐信の乱で正規軍と戦うもこれに敗北し、最終的に政景は自刃して果てた。
そしてその責任は政景の嫡男である政長にも及ぶかに思われたが、幼き子供を手に掛ける事を良しとしなかった祐藤の意向により斬首刑は免れた。
政長は命こそは救われたものの、後に主君に背いた者の子としての連帯責任を次第に問われ始める。
その結果、志太家を追放されて墨山国の深い森という辺境の地に送られる事となった。

国輝
「幼き時に主君から追放され、苦労に苦労を重ねて生きて来た者ほど強き者はおらぬ故。」

不遇の幼少期を経て成長した政長の貪欲さは、現在の十部家での活躍を見ても凄まじいものであろう。
そうした原動力を持った者を味方に取り入れる事に意味があると国輝は考えていた。

国輝
「十部を我らの手中に収めるがこの戦いは勝ちぞ。」

国輝の目はぎらぎらと光っていた。
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