架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

文字の大きさ
上 下
348 / 549
第8章 将軍への道程編

42.墨山の戦い(10)

しおりを挟む
墨山城付近において突如発生した霧により志太軍は劣勢の状態に陥った。
そして外河家による一方的な攻撃を受け、全軍壊滅の危機に瀕していた。

すると義秀(頼隆)が軍勢を救うべく立ち上がった。
退却路の確保を行い、軍勢に案内を行うという内容だ。

軍勢はこの頼隆による案内に従うべく進み始めるのだが、外河軍の攻撃を避ける事は困難であった。
そこで義道は、殿を務めて軍勢の退却を促すように提案。
志太軍は全軍退却を行う事となった。

祐宗
「皆の者よ、急ぐのじゃ!急ぐのじゃ!」

祐宗は慌てた様子でそう叫ぶ。
そして頼隆が大声を上げて案内する。

義秀(頼隆)
「こちらにございます!ささっ、早う拙者の後に続いてくだされ!」

そうして軍勢は、頼隆の元を目指して進み始めるのであった。
義道が真剣な表情をして呟く。

義道
「若…いや、殿!どうか皆を頼みましたぞ…」

志太軍が退却を目指して進み始めた事を確認した義道は、唇をきゅっと引き締めて国輝に対して声を上げる。

義道
「さぁ国輝殿よ、どこからでもかかって来るが良い!この大村義道が相手いたそうぞ!」

すると国輝は鼻で笑いながら答える。

国輝
「ふっ、老いぼれの将たった一人で何が出来るいうのじゃ!笑わせおるわ!」

志太軍は、ただでさえ不利な形勢に追い込まれているのだ。
このような状況下で殿として指揮するは年老いた武将ただ一人。
どう見ても外河軍が有利である事に違いは無かろう。
国輝はそう確信していた様子である。

すると義道が険しい表情をして言う。

義道
「良かろう、では試してみるが良い。儂がただの老いぼれでは無いということをお主らに存分に思い知らせてやるわ!後悔するでないぞ?」

義道は、国輝が吐き捨てるように言った「老いぼれ」という言葉に怒りを覚えていた。
この義道の反応に対して国輝は失笑しながら声を上げる。

国輝
「ほう、随分と自信がおありなことで。では、お望み通り…おいお前たち、行くぞ!」

国時
「大村義道殿よ、御覚悟を!」

義道
「皆の者よ、今一度聞け!我ら軍勢は見ての通り不利な状況である。それ故、何としてでも奴らに一矢報いるのじゃ。良いな?」

こうして外河軍は、義道の軍勢に対して総攻撃をかけ始めるのであった。

その様子に祐宗が口を開く。

祐宗
「まさか、叔父御は…この戦で死ぬつもりではござらぬか…」

覚悟を決めたかのような義道の言葉を聞いた祐宗は、心配そうな表情を浮かべていた。
祐永も続いて口を開く。

祐永
「叔父御は出陣前に、こたびの戦いを自らとしての最後の戦いにしたいと口々にされておった。それが真ならば、叔父御は兄者の申す通り…」

義道は今回の墨山での戦いを最後として身を退こうと考えていた。
これがどう言う意図であるかは義道本人にしか分からぬ事ではあるが、この状況では死を覚悟して今回の戦に望んでいたのでは無いかと祐永は考えていた。

すると、崇冬らを始めとする志太家の武将が次々と口を開き始める。

崇冬
「義道殿は、先代である祐藤様の御兄弟にございます。それ故、かような所で敵になぞ討たれはしませぬ。拙者は信じておりますぞ!」

康龍
「拙者も崇冬殿に同じく。義道殿は、数多なる戦では必ず無事に帰還されたとお聞きしております。こたびの戦もご無事に我らと共に帰還されることかと存じます。」

玄名
「我ら志太家の者たちは皆、泰平の世を願って戦っております。かような正しく強き想いを持たれた義道殿が敗れるなど私も考えられません。」

どうやら崇冬らは義道という男の底知れぬ力を認めており、彼が無事に帰還する事を確信している様子である。
これらの言葉を聞いた祐宗は、顔を引き締めて声を上げる。

祐宗
「皆の者よ、叔父御のお気持ちを無駄にせぬ為にもまずは我らがこの場から撤退することを考えよ!良いな?」

祐宗のその声に軍勢は更に退却の足を速め始めるのであった。

祐宗
「叔父御…死ぬなよ…必ず生きて帰って来るのじゃぞ…」

眼に涙を浮かべながら祐宗はそう何度も呟いていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...