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第8章 将軍への道程編

32.いざ出陣

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軍議から三日が過ぎ、八光御所では出陣に向けて家臣たちが集結していた。
祐宗が家臣たちの前に立って言う。

祐宗
「よし、皆が集まったようじゃな。準備は良いか?」

その祐宗の問い掛けに家臣たちが声を上げ始める。

祐永
「いよいよ決戦の時が来たようにござるな。外河家を制圧すれば今度こそ真の天下統一となりましょう。」

意気揚々とした様子で祐永がそう言っていた。

三浦幕府が滅亡した事で将軍が不在となった創天国。
ここは志太家が新たな将軍家として君臨し、祐宗が将軍の地位に就く事が自然な流れではあろう。
だがそれは、ある理由によって未だ実現できていない。

太古の昔に創天国を建国した「大神」の存在である。
大神には神話の粋を出ない逸話が数多く存在するが、創天国という一つの国を建国したという偉業を成し遂げた事に間違いは無い。

そこから時代は流れ、初代大神から数代後の大神であった創武大神(そうぶのおおかみ)によって三浦家を将軍家として任命し、幕府という武家政権が成立した。
将軍を任命するにあたっては、創天国全土の大名を始めとする権力者が将軍家となる家の傘下となる事が前提となっている。

現在、外河家は志太家に対して傘下に加わる意向を見せておらず、その前提が果たせていない状態だ。
それ故、外河家を制圧しなければ志太家による幕府が成立しないという事もあり、今回の戦いは非常に重要なものとなっているのである。

そして崇冬は胸を張って声を上げる。

崇冬
「この口羽崇冬、亡き父上の働きに及ぶよう全力を尽くして戦いましょうぞ!」

父である崇数は戦において数々の功績を挙げており「鬼の口羽」の異名を持つほどの凄まじい戦いぶりであった。
そうした偉大な父に少しでも近付くよう崇冬は、鍛錬の日々を過ごしていたという。
その成果を、この戦いにおいて存分に発揮させようと躍起になっているようである。

続いて玄名が意を決した様子で言う。

玄名
「松永国輝による悪政に苦しむ墨山国の領民たちをお救いする為にも、私も戦いますぞ!」

墨山国では外河家が大名として存在しているが、現当主の頼信は元服して間もないという若輩者だ。
そこで、補佐役として名乗りを上げた国輝が頼信に代わって政を行う事を提案。
頼信はこれを認め、実質は国輝が墨山国を治めている事になったのである。

やがて国輝は、打倒志太家という目標達成の為に外河家臣や領民たちなどに過剰なまでの圧力をかけ始めた。
その悪政は、かつての悪名を轟かせていた大名 柳幸盛の再来のように思えた玄名は深刻な顔をしていた。

そんな玄名を見ながら康龍が言う。

康龍
「頼隆殿、さぞかし無念であったろう…頼隆殿とは敵同士ではござったが、こたびの戦は弔い合戦といたそう!」

康龍は以前、墨山国において頼隆と接触を行っていた。
その際に志太家の者という事が発覚するも頼隆はこれを容認し、解放した。
そうした恩義も康龍は感じていたのであろうか、頼隆の無念を晴らすべく外河家と戦うと言った旨の言葉を発していた。

すると義道が苦い顔をしながら口を開く。

義道
「いやはや儂も歳である故、こたびの戦が志太家にとって最後のものとなれば良いのじゃがな…」

義道は病こそ患わなかったものの加齢と共に体力は年々に低下しており、かつての溢れんばかりの気力は失われつつあった。
それでもなおこうして未だ現役で前線には出ていたが、義道自身も衰えを感じずにはいられなかったようである。
義道の発した言葉からは、今回の外河家との戦いを最後として隠居を考えているような様子であった。

そうして家臣たちが一通り今回の戦いにおいての意気込みを述べた後に、頼隆が皆に対して言う。

頼隆
「ここから墨山の地までは険しき道となる故、ご覚悟くだされ。では、拙者が案内いたしましょう。」

そうして軍勢は頼隆に続いて進軍を開始していた。
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