335 / 549
第8章 将軍への道程編
29.悲しき運命
しおりを挟むそれから二月ほどの月日が過ぎていた。
新たに家臣として加わった義秀(頼隆)も、志太家に馴染んだ様子であった。
御所内では祐宗と貞広、頼隆が何やら会話を交わしていた。
困った表情を見せながら祐宗が口を開く。
祐宗
「あれから二月ほど経ったが、墨山の動きが掴めぬのう…」
依然として墨山国の情報が志太家に入って来ないという。
あれからも忍びを放ち続けてはいるものの、新たな情報の入手には至っていない。
どうやら墨山国自体に入るほどに警備は厳しいものとなっているのであろうか…
頼隆
「よほど墨山国の今の情報を我らに知られたく無いように思えますな…」
この現状には頼隆も深刻そうな表情を浮かべてそう言っていた。
貞広
「確かな情報を得られぬことには我らも動きづろうございますな…」
貞広もまた、首を傾げて困った様子でそう言っていた。
その時である。
一人の男が突然に祐宗らの前に姿を現した。
男は、志太家が放った忍びの一人であった。
祐宗
「むっ?お主は我らが放った忍びの者か。」
忍びが慌てた様子で答える。
忍び
「はっ、いかにも。祐宗様!ようやく墨山国の情報を今しがた入手して参りました!」
どうやら墨山国の有力な情報を手に入れる事が出来たようである。
今まで何人もの忍びを送り続けたであろうか。
それが今、ようやく一人の忍びの働きによって任務が達成された事になる。
この忍びの報告に祐宗は浮ついた様子であった。
祐宗
「おぉ!でかしたぞ!して、今の墨山はどうなっておるのじゃ?」
忍び
「はっ、何やら外河家の当主である外河頼隆殿は随分と前に亡くなっていたとのことにございます。」
祐宗
「なに?頼隆殿が既に亡くなっておるじゃと?」
驚いた様子で祐宗がそう言った。
外河家の当主としてなりすましていた源五郎が亡くなっていたという事など、まさに寝耳に水であったからだ。
そして次の忍びの報告を聞き、祐宗はその耳を疑う事となる。
忍び
「はい、そして頼隆殿は我が志太家が放った刺客によって斬られたとの噂が広まっております…」
祐宗
「なんじゃと?墨山の者たちは皆がかようなことを申しておるというのか?」
祐宗は声を荒らげてそう言っていた。
無論、志太家から刺客を放って源五郎を謀殺するなどといった事は行っていない。
祐宗は、全くのいわれ無き罪をかけられた事に対する怒りが沸々とわき上がって来るのが表情からも分かった。
貞広
「どうやら目的を果たし、影は最早不要となった故に始末したというわけにございましょう…松永国輝、真に腐った男よ。」
そして貞広は自身の部下を道具のように使い、用が済んだら簡単に切り捨ててしまうと言った国輝の身勝手さを痛烈に批判していた。
頼隆
「国輝は二度も我を殺したというのか…全く、ふざけた真似をしてくれるわ…」
危うく始末をされかけ、さらには頼隆の名を騙った影までも手にかけるなどこれ以上にない屈辱を与えられた国輝に対して頼隆は、腸が煮えくり返っていた。
その間にも忍びがさらに報告を続ける。
忍び
「そして、外河家では頼隆殿の嫡男である頼信殿が家督を継いで大名の座に就いているようにございます。」
外河家では頼隆の死を受け、嫡男の頼信が家督を相続しているという。
この報告を聞いた頼隆が静かに口を開く。
頼隆
「頼信が、か…」
頼隆は少し戸惑った表情を見せていた。
すると祐宗がそんな頼隆に対して声をかける。
祐宗
「頼隆殿、親子に分かれて戦うのは辛かろう…少し、何か他に良き策を考えぬか?」
このまま志太家と外河家の全面戦争となれば、頼隆と頼信という親子が敵同士に分かれて戦う事となるであろう。
子が親を殺す、またはその逆の事が起きても不思議では無いのが戦国の世だ。
だが今回は不本意な形で引き起こされたこともあり、何としてでも平和的に解決できる術は無いかと祐宗は頼隆に問いかけていた。
しかし、これに対し頼隆はすぐに毅然とした態度を見せて口を開く。
頼隆
「いえ、これも乱世を生きる者の運命にございましょう。我はこの運命を受け止める他に道はございませぬ…」
頼隆は覚悟を決めた表情でそう言っていた。
0
佐村孫千Webサイト
https://samuramagosen.themedia.jp/
https://samuramagosen.themedia.jp/
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください

小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる