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第8章 将軍への道程編
29.悲しき運命
しおりを挟むそれから二月ほどの月日が過ぎていた。
新たに家臣として加わった義秀(頼隆)も、志太家に馴染んだ様子であった。
御所内では祐宗と貞広、頼隆が何やら会話を交わしていた。
困った表情を見せながら祐宗が口を開く。
祐宗
「あれから二月ほど経ったが、墨山の動きが掴めぬのう…」
依然として墨山国の情報が志太家に入って来ないという。
あれからも忍びを放ち続けてはいるものの、新たな情報の入手には至っていない。
どうやら墨山国自体に入るほどに警備は厳しいものとなっているのであろうか…
頼隆
「よほど墨山国の今の情報を我らに知られたく無いように思えますな…」
この現状には頼隆も深刻そうな表情を浮かべてそう言っていた。
貞広
「確かな情報を得られぬことには我らも動きづろうございますな…」
貞広もまた、首を傾げて困った様子でそう言っていた。
その時である。
一人の男が突然に祐宗らの前に姿を現した。
男は、志太家が放った忍びの一人であった。
祐宗
「むっ?お主は我らが放った忍びの者か。」
忍びが慌てた様子で答える。
忍び
「はっ、いかにも。祐宗様!ようやく墨山国の情報を今しがた入手して参りました!」
どうやら墨山国の有力な情報を手に入れる事が出来たようである。
今まで何人もの忍びを送り続けたであろうか。
それが今、ようやく一人の忍びの働きによって任務が達成された事になる。
この忍びの報告に祐宗は浮ついた様子であった。
祐宗
「おぉ!でかしたぞ!して、今の墨山はどうなっておるのじゃ?」
忍び
「はっ、何やら外河家の当主である外河頼隆殿は随分と前に亡くなっていたとのことにございます。」
祐宗
「なに?頼隆殿が既に亡くなっておるじゃと?」
驚いた様子で祐宗がそう言った。
外河家の当主としてなりすましていた源五郎が亡くなっていたという事など、まさに寝耳に水であったからだ。
そして次の忍びの報告を聞き、祐宗はその耳を疑う事となる。
忍び
「はい、そして頼隆殿は我が志太家が放った刺客によって斬られたとの噂が広まっております…」
祐宗
「なんじゃと?墨山の者たちは皆がかようなことを申しておるというのか?」
祐宗は声を荒らげてそう言っていた。
無論、志太家から刺客を放って源五郎を謀殺するなどといった事は行っていない。
祐宗は、全くのいわれ無き罪をかけられた事に対する怒りが沸々とわき上がって来るのが表情からも分かった。
貞広
「どうやら目的を果たし、影は最早不要となった故に始末したというわけにございましょう…松永国輝、真に腐った男よ。」
そして貞広は自身の部下を道具のように使い、用が済んだら簡単に切り捨ててしまうと言った国輝の身勝手さを痛烈に批判していた。
頼隆
「国輝は二度も我を殺したというのか…全く、ふざけた真似をしてくれるわ…」
危うく始末をされかけ、さらには頼隆の名を騙った影までも手にかけるなどこれ以上にない屈辱を与えられた国輝に対して頼隆は、腸が煮えくり返っていた。
その間にも忍びがさらに報告を続ける。
忍び
「そして、外河家では頼隆殿の嫡男である頼信殿が家督を継いで大名の座に就いているようにございます。」
外河家では頼隆の死を受け、嫡男の頼信が家督を相続しているという。
この報告を聞いた頼隆が静かに口を開く。
頼隆
「頼信が、か…」
頼隆は少し戸惑った表情を見せていた。
すると祐宗がそんな頼隆に対して声をかける。
祐宗
「頼隆殿、親子に分かれて戦うのは辛かろう…少し、何か他に良き策を考えぬか?」
このまま志太家と外河家の全面戦争となれば、頼隆と頼信という親子が敵同士に分かれて戦う事となるであろう。
子が親を殺す、またはその逆の事が起きても不思議では無いのが戦国の世だ。
だが今回は不本意な形で引き起こされたこともあり、何としてでも平和的に解決できる術は無いかと祐宗は頼隆に問いかけていた。
しかし、これに対し頼隆はすぐに毅然とした態度を見せて口を開く。
頼隆
「いえ、これも乱世を生きる者の運命にございましょう。我はこの運命を受け止める他に道はございませぬ…」
頼隆は覚悟を決めた表情でそう言っていた。
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