上 下
334 / 549
第8章 将軍への道程編

28.互いの動き

しおりを挟む
八光御所では、祐宗と頼隆の二人が会話を交わしていた。
祐宗が頼隆に対して言う。

祐宗
「頼隆殿よ、今日からお主は大村義秀として名乗るが良い。」

―― 大村義秀(おおむらよしひで)
頼隆が身分を隠す為に祐宗から与えられた偽名である。
続柄は、祐宗の縁戚(父 祐藤の父方の兄弟[架空]の血筋)として志太家に仕官したと言う具合にした。

祐宗
「それと…顔が知られては元も子も無き故に、お主の顔は頭巾で隠すと良かろう。」

祐宗の縁戚に当たる人物、それが義秀である。
と、名を偽ったところでもその顔までは偽る事は出来ない。
そこで祐宗は、頭巾を常用して素顔を隠す事を頼隆に提案したのである。

祐宗
「頭巾に関しては家臣たちに我からも上手く申しておくが、お主は[幼少期に少しあってな…]などと答えられよ。良いな?」

頼隆
「ははっ、承知いたしました!」

頭巾を常用し、素顔が隠された者が新たに家臣として加わる事で家中の者たちは少なからず不信感を抱くであろう。
その為にも祐宗は、あらかじめそうせざるを得ない事情があるという旨を家臣たちに伝えておくと言っていた。
そうする事で不信感を抱かせる事を減らし、頼隆を家臣として迎えようとしていた。

こうして志太家は、頼隆が新たに家臣として加わる事となった。

頼隆
「今後は志太家の家臣として、祐宗様をお支え致す覚悟にございまする!」

頼隆は祐宗に対して頭を深々と下げていた。
その様子を見た祐宗は笑顔を見せながら言う。

祐宗
「うむ、これからはよろしく頼むぞ。それに、墨山国にお主が復帰出来るように我も全力で協力致そうぞ!」

頼隆
「祐宗様…真に有難きお言葉にございます…」

頼隆の目は涙で滲んでいた。

一方、墨山城では志太家との戦いに向けての軍議が行われていた。

頼信
「我が外河家は今、志太家による脅威にさらされておる。来たるべき志太家との戦に備えて何か意見のある者はおらぬか?」

頼信は、志太家との戦いにおいて何か良い策が無いかを家臣たちに問い掛けていた。
だが家臣たちは誰もが口を紡ぎ、発言する様子が無かった。

それもそのはず、相手は百戦錬磨の大大名であり間もなく将軍の地位を築こうとしている志太家だ。
一大名家である外河家がそのような強大な相手に立ち向かって果たして勝機はあるのか。
今回の戦いは、先代の頼隆が志太家の策略によって殺害された仇を討つ為であると言った名目こそ存在するが、逆に返り討ちにされて無駄死に終わるのではないか。
など、後ろ向きな考えを持つ家臣たちが少なく無かった為であろう。

そんな中、国輝がその沈黙を破った。

国輝
「どうやら皆は志太家との戦に勝ち目は無いとお思いのようにござるな。」

国輝は、家臣たちが志太家に対して恐れを感じているのであろうと述べていた。

頼信
「うむ、これは墨山の民たちや皆の者を守る為にも避けられぬことではある故に仕方の無きことにはござるが、相手が相手じゃからのう…」

頼信も国輝の言った事に対して良く理解している様子であり、また自身も志太家と戦う事を恐れている様子であった。
すると国輝が頼信に対して口を開く。

国輝
「頼信様、亡き御父上の頼隆様は生前に志太家との戦のことについて良く考えられておりました。」

頼信
「うむ?父上がか?それは一体、どのようなものである?」

そして国輝が続けて言う。

国輝
「今、信栄斎殿が必死になられて頼隆様の命である志太家との戦を有利に進める為の物を造られております。その物が完成すれば志太家など目ではございませぬぞ!」

頼隆(源五郎)が当主であった頃、信栄斎に対してとある道具の開発を依頼していた。
どうやらその道具が完成すれば志太家との戦いを非常に有利に進める事が出来るというのだ。

頼信
「ほう、信栄斎殿がか…それは期待しても良いのじゃな?」

国輝
「はい。信栄斎殿は幾度となくこの墨山国の繁栄に貢献されております故、今回も必ずや良き物を造ってくれることでございましょう。」

信栄斎は、墨山国において農業や商業を始めとするあらゆる分野に特化した優れた知恵や道具を造り出して来たという。
そのおかげもあり、墨山国は他国とは比べようが無いほどの高い技術力を持っていたとされている。
こうした優れた人物が今回の対志太家との対策に従事しているのであるから、何も心配は無いであろう。
国輝はそう熱弁を振るっていた。

それを聞いた頼信は、納得した様子で声を上げる。

頼信
「そうか、分かった。では、その信栄斎殿の吉報を待つとしよう。それまで皆の者は志太家との戦に向けて日々鍛錬されよ!良いな?」

こうして外河家の軍議は終了したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...