架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第8章 将軍への道程編

25.哀れな領主

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一人の男が祐宗に面会を求めに八光御所へと訪れていた。
そして祐宗は、その男と顔を合わせる事となった。

祐宗
「ふむ、ここらでは見かけぬ顔にござるな。して、お主の名は何と申すのじゃ?」

男の顔を見た祐宗がそう問いかける。
すると男は慌てた様子で答え始めた。


「はっ、名乗り遅れて真に申し訳ございませぬ。拙者、墨山国大名 外河頼隆にございます。」

「外河頼隆」
その名前を聞いた祐宗は驚いた表情をして言う。

祐宗
「なに?外河じゃと?今、確かにそう申したか?」

頼隆
「はい、墨山国の外河頼隆にございます。」

祐宗の問い掛けに対し、頼隆は再度自身の名前を口にしていた。

頼隆は、先日に国輝の策略によって暗殺されたと思われた。
が、しかし何と生きていたというのだ。
これは一体、どういう事なのであろうか…

あの日、頼隆は志太家へ向かう道中に崖から突き落とされた。
そして落下した先は、大量の滝水が絶え間なく注がれている大きな滝壺であった。
頼隆は激しい濁流が渦巻く滝壺の中へ飲み込まれたのだ。
その様子を見た国輝らは最早助かる見込みは無いであろうと考え、その場を早々に立ち去った。
暗殺に成功したと思われていたからである。

だが、そこで思わぬ奇跡が起きた。
国輝らが頼隆を突き落とした滝壺から立ち去ったその直後の事である。
滝壺の底に沈んだかと思われた頼隆であったが、水流に上手く乗った事で渦巻く濁流から逃れられたのであった。

そうして頼隆は延々と続く川に流されて行った。
やがて気がついた時は、とある山の川下に流れ着いた。
そこは、志太家領地の立天野山であった。

ここが志太家の領地である事に気付いた頼隆は、立天野の地から祐宗のいる八光御所を目指して進み始める。
そうして数日をかけ、ようやく八光御所にまで辿り着いたのだ。

祐宗
「しかし頼隆殿ほどの者が直々に、それも我が志太家への仕官を所望とは…一体、どういうわけにござるか?」

祐宗は、大名である頼隆が志太家の家臣として訪ねに来たという事に疑問を感じていた。
国輝らが外河家の使者として訪れた際には、志太家と徹底抗戦も辞さない覚悟を見せていたからである。

すると頼隆が静かに口を開く。

頼隆
「真にお恥ずかしき話にございますが、全てお話しいたしましょう…」

頼隆は祐宗にこれまでの経緯を話し始めた。

当初は自国を守るために志太家と徹底抗戦する構えを見せていた事。
しかしその後の選挙戦の結果を知り、志太家に対しての考えを改めていった事。
そして志太家の傘下となる事を決意し、八光御所へ訪れようとしていた事。
だが、その道中に同行させていた国輝らの策略にかかり、暗殺されかけた事。

など、志太家の対応において外河家が起こした一連の動きを頼隆は事細やかに話した。

祐宗
「なるほどのう…そのようなことがあったのか…」

貞広
「家臣であった者に裏切られる…心中お察しいたしますぞ…」

祐宗らは頼隆が受けた苦労に対して痛々しい表情をしていた。
さらに頼隆が続けて言う。

頼隆
「国輝らは拙者の影武者を使い、墨山国を操るつもりにございます…」

国輝は、極秘で頼隆の影武者の用意をしていた。
彼の部下、源五郎の事である。

今現在の源五郎は頼隆として大名の座に就いている。
ただしそれはあくまでも形式だけであり、真の支配者として松永国輝がその実験を握っていると言う。
いわゆる「傀儡政権」と呼ばれるものである。

そして頼隆は深刻な顔をして言う。

頼隆
「そして、奴らは志太家と一戦を交えるつもりにございます…幕府に従わぬ国として独自に政を執ることが真の狙いかと…」

どうやら国輝らは外河家として戦いを仕掛け、墨山国を何としてでも独立国として認めさせたいようである。
こうしている間にも、国輝による「私利私欲」にまみれた欲望の政権を実現させる為の準備が着々と進められているのであろう…

貞広
「松永国輝、真に卑劣な手を使う男にござるな…許せぬ…許せぬわ…」

貞広は口調こそ静かではあったが、表情は怒りの面を見せていた。
すると頼隆は、祐宗に対して頭を地に擦り付けながら言う。

頼隆
「祐宗様!真に厚かましきことは承知の上で申します。奴らを、国輝らを討伐する為にもお力添えをお願いいたしまする!」

頼隆は自身の国である墨山の地を取り戻す為に必死であった。
だが、国輝らによって大名の座を奪われた今の頼隆は無力な存在と言っても良い。
その為にも志太家という強大な勢力の助けが必要である故、こうして御所を訪れたという事を伝えていた。

そんな頼隆を見た祐宗は、すぐに答え始める。

祐宗
「国輝による暴走、いずれにせよ我らとしてもこのまま黙って見過ごすわけにはいかぬな。頼隆殿、協力いたそう!」

頼隆
「ははっ、真に有難きお言葉!」

祐宗の言葉を聞いた頼隆の目には涙がこぼれていた。
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