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第8章 将軍への道程編

22.替玉

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国輝らの策略により、突然の襲撃を受けた頼隆。
頼隆は隙を見て彼らの元から逃走を図るも失敗に終わる。
そして崖の上に追い詰められた頼隆は国輝らによって突き落とされ、轟音の鳴り響く滝壺へと沈んでいった。

国輝
「おうおう、これまた派手に落ちたものよのう。」

滝壺を目掛けて一直線に墜落していった頼隆を見て国輝が笑いながら言った。
国時もまた笑みを浮かべながら国輝に対して言う。

国時
「我々が刃にかけて始末するまでも無かったですな。ただ、死に顔を見れそうに無きことは残念ではございますが…。」

崖から突き落とすという手を実行した国時ではあったが、その後の言葉からは頼隆の死を確認出来なかった事に対して少なからずの懸念はしていたようである。
すると国輝は、その国時の心配を吹き飛ばすように言い放つ。

国輝
「なぁに、あれほどの滝壺に落ちたとならば屍が上がることは無かろう。これで良いわ。」

頼隆が突き落とされた谷底は上流の滝から大量の水が絶えず注ぎ込まれており、激しい濁流が渦巻いている。
このような場所に落ちたとなれば、助かる見込みはまず無いであろう。
その様子は、もがけばもがくほど底に沈み行く蟻地獄にかかった蟻のようだ。

国輝は、後ろにいた男に対して声をかける。
その男は先程に頼隆を驚かせた頼隆と容姿が瓜二つの人物である。

国輝
「源五郎よ、これからはお前が外河頼隆を演じよ。良いな?」

・源五郎(げんごろう)
一切の出自は不明であり、非常に謎の多い人物であるとされている。
国輝が外河家に士官した頃を境目に彼の名前が後の文献などで確認されている事から、少なくともその時期には二人が何らかの形で接触していた事が伺える。
外河頼隆に容姿が酷似していた為、国輝によって極秘で影武者として彼を仕立て上げる。
そして国輝らが頼隆を策略にかけて始末した後、源五郎は外河頼隆として生きる事を命ぜられた。

源五郎
「ははっ、仰せの通りに!」

源五郎は腰を落とし、国輝に対して深々と頭を下げてそう言っていた。

国輝
「それにしても、影が本物になるとは真に皮肉な話であるな。わっはっはっは!」

国輝は声を上げて大笑いしていた。

そうして一行は道を引き返し、墨山城へと帰還した。
日は既に落ちており、空には朧月が浮かび上がっている。

帰還後はすぐに家臣たちを集め、緊急で評定を開いた。
家臣たちの前で源五郎が声を上げる。

源五郎
「皆の者よ、よく聞け。我ら外河家は、志太家には屈せぬことに決めた。それ故、来たるべき志太家との戦いに皆は備えよ!」

この源五郎の言葉に家臣たちは皆が驚き、そして呆れた様子の表情を見せた。
昨日までは志太家に従うと言っていたのにも関わらず、今日になって緊急で評定を開いてこの表明である。
家臣たちは、朝令暮改も甚だしいと言わんばかりの顔色をしていた。

そんな中、国輝が真剣な表情をして源五郎に対して言う。

国輝
「殿、ご英断かと存じます。そうとあらば拙者たちは命の限り外河家に尽くしまするぞ!」

それに続けて国時も口を開く。

国時
「拙者も同じく。志太家は油断のならぬ相手故、奴らのことに関しては拙者らにお任せくだされ!」

そんな二人の様子を見た源五郎が凛々しい表情で声を上げる。

源五郎
「うむ、よろしく頼むぞ。では早速じゃが、国輝殿を対志太家の軍団長に任命いたす。国時殿は国輝殿の補佐を命じようぞ。」

国輝
「ははっ!かような役を拙者が頂けるなど真に有難きことにございまする!」

国時
「外河家は拙者たちがしっかりとお支え致します故、ご安心くださいませ!」

国輝と国時は嬉しげな表情で喜びの声を上げていた。
そして源五郎もそれに続けて声を上げる。

源五郎
「真に頼もしきことを申してくれよる。感謝致すぞ。皆の者も国輝殿らに続くのじゃ。良いな?」

すると家臣たちは先程の呆れた表情から一転し、我も手柄を立てんと言わんばかりの勇ましい表情をしていた。
源五郎の国輝に対する突然の軍団長任命で彼らの闘争心に火が付いたのであろうか。

こうして源五郎による外河家の評定は終わり、家臣たちは解散した。
国輝、国時、そして源五郎の三人は家臣たちが解散した後もその場に留まっていた。
国輝が不気味な笑みを浮かべながら言う。

国輝
「ふふふ…実に上手くいったものじゃのう。源五郎よ、真にご苦労であったな。」

源五郎
「ははっ。お役に立てたようで何よりにございます。」

畏まった様子で源五郎はそう言った。
そして国時も続けてにやりと笑いながら言う。

国時
「奴らは皆が源五郎殿を頼隆と思っておる故、外河家は最早我らの物と申してもよろしいでしょうな。」

現在の外河家の権限は、国輝らが握っていると言っても過言では無い事を三人は実感していた。

国輝
「さぁて、志太家との戦いに向けてもう一策を仕掛けるとするかな。」

国輝の目はぎらぎらと光っていた。
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