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第8章 将軍への道程編

10.対面

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一介と別れた康龍らは、外河頼隆に会うべく墨山城を訪ねていた。
そこで門番をしていた家臣の男に引き止められるが、康龍らは旅の商人であると身分を偽る事で頼隆との面会の許しが出た。

男に城内を案内された広間の先には、一人の男が座っていた。
歳は康龍と同じほどであろうか、非常に若い青年の容姿をしている。
この男が、外河家当主 外河頼隆であった。

頼隆
「お主らが杉山殿に宮田殿か。」

頼隆は、康龍らをみかけるやいなやそう声をかける。

康龍
「ははっ、旅の商人の杉山にございます。かような機会を与えていただき、真に有り難く存じます。」

康龍は畏まった様子で頼隆に対してそう言った。
すると頼隆がすかさず康龍らに対して言う。

頼隆
「それにしても、お主らは我が城に興味があると見た。そんなにこの城が珍しいかね?」

墨山城の調査という事で康龍らは細かく城内を観察する様子が、頼隆には物珍しげに辺りを見回す田舎者として映っていたようである。
だが、余所者である康龍らに対して少なからずの不信感を抱いていた事がその口調からも伺える。

そして、頼隆に対してこれ以上不信感を与えまいと康龍がすかさずこう答えた。

康龍
「私はこれまでに色々な国の城を目にして参りましたが、この墨山城は今まで見たことの無い素晴らしき城であった故、ついつい見とれてしまったのでございます。」

康龍は、他の城には無い魅力を墨山城に感じていたなどとにかく褒めちぎっていた。
すると頼隆は一気に柔らかい表情に切り替わり、康龍らに対して言う。

頼隆
「ほうほう、そうであったか。そこまで申されるほどに我が城に魅力を感じられたのであらば、もっと他にも教えてやろうか?」

康龍による墨山城を褒めた内容の言葉を聞いた頼隆は気分を良くしたのであろうか、墨山城についてもっと深く教えてあげたいと感じていたようである。

康龍
「大変興味がございます。頼隆様、是非ともお願いいたします!」

嬉しげな表情をして康龍がそう声を上げた。
墨山、それも大名の居城である墨山城の情報がこうも簡単に手に入る事に康龍らの心は躍っていた。

頼隆
「この城はな、他の国の城とは比べ物にならぬほど堅固なのじゃ。それはのぅ…」

頼隆は墨山城について次のような事を語り始めた。

墨山城は最高の防御力を誇るという。
それは、建築するにあたって使用されるある材質によるものが強いとされている。

その材質とは「鋼鉄」である。
実は墨山周辺には鉄鉱石が豊富に採取出来る場所があり、未だ枯渇する気配が無いという。
こうした事からも鉄は墨山国では非常に身近な存在の物質であり、建築を始め様々な技術に多用されている。

鋼鉄によって造られた城は、確かに防御力としてはこの時代においては最上級である事に違いは無いであろう。
すると、宗重が頼隆に対して素朴とも言える質問を投げかける。

宗重
「しかし、仮に籠城戦に持ち込まれた場合は他の城と変わらずに時との勝負とはなりませぬか?」

合戦においてひとたび籠城戦になってしまえば持久戦となる。
敵軍によって補給路が断たれる事で兵たちの士気もじわじわと低下し、やがては落城するのだ。

宗重が口にした疑問は非常に純粋なものではあるが、確かに堅固な城であろうとも敵軍に囲まれてしまえばその防御力も無意味と言っても良いであろう。
言われてみればなるほどその通りかも知れない。

だが、頼隆は宗重のそんな疑問に素早く返答する。

頼隆
「その心配は無用じゃ。この墨山城の地下深くに、たんまりと蓄えがあるからのぅ。」

どうやら墨山城には地下に兵糧を貯蔵する蔵が設けられているようだ。
地下にそうした施設を設ける事により、焼き払いなど外からの攻撃を受ける危険を無くしている。
そうして籠城時であろうとも安定した兵糧などの供給が見込める事で、長期戦でも十分に耐えうる状況を作っているという。

頼隆
「それ故、我が外河家は他家からの武に屈したことは一度もござらん。」

頼隆は誇らしげな表情をしてそう言っていた。
すると康龍が深く頷きながら口を開く。

康龍
「真に素晴らしき城にございます…私は、墨山城に惚れ申しました。」

康龍は感服した様子であった。
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