架空戦国伝

第８章 将軍への道程編

08.墨山の情報

康龍ら一行は墨山国へ無事に到着。
今まで見たことの無い城下町の風景に康龍と宗重は圧倒されていた。

物珍しげに城下町を眺めて暫くの時が経ったその時、一介が康龍らに対して声をかける。

一介
「お二方、これも何かの縁にございます。この後、一杯どうですかな？私が奢らせていただきますぞ。」

一介は、墨山までの道中を共にした康龍らに対して親近感を覚えていた。
険しき山道を登りきったという苦労の共有感が彼をそうさせたのであろうか。

康龍
「それではお言葉に甘えさせていただきましょうかな。」

康龍はこれに対して快く返事の言葉を発していた。
すると宗重が康龍に対して耳打ちを始める。

宗重
「康龍殿、これで墨山の情報が一気に手に入りそうですな…」

康龍
「うむ、願っても無いことにござる。拙者たちは真に運が良いのぅ…」

康龍らは嬉しげな表情を浮かべてそう言った。

そうして一行は城下町にある酒場に入っていた。
どうやらここは一介の行きつけの酒場のようである。

酒が注がれた盃を手にした康龍が一介に対して言う。

康龍
「一介殿、墨山での政についてもう少し詳しく聞かせてはもらえませぬか？私どもによる商いの参考とさせていただきたいもので…」

一介は盃に入った酒を一口飲んで答える。

一介
「よろしいでしょう。では、もう少し深くお教えいたします。」

そしてひと息ついた後に語り始める。

一介
「こたびの墨山国政務団長選出選挙ですが、主な候補者としてはこれより申します三名です。」

・武野 氏豊（たけの うじとよ）
墨山国政務団長選挙の候補者の一人で自身は外河家家臣の縁戚にあたる家柄である。
外河家による推薦を受けて立候補する。
主な政策としては、外河家の提案するものに準ずる形としている。
大名である外河家の推薦ということもあり、現状では最有力の候補者となっている。

・一条 政太郎（いちじょう まさたろう）
墨山国政務団長選挙の候補者の一人。
商人推薦代表として立候補する。
領民の暮らしを豊かにさせる事を理想に掲げており、その為には手段を選ばぬという強行的な思想を持っている。

・松尾 重澄（まつお しげずみ）
墨山国政務団長選挙の候補者の一人。
農民推薦代表として一念発起して立候補する。
外河家による政権に対して少なからずの不満があるようで、昨今の外河家の姿勢などに対しても批判的な姿勢を見せている。

一介
「と、まぁこういった現状にございますな。」

一介は酒に酔い始めているのであろうか、少しばかり顔が赤く火照っていた。
すると康龍が一介に対して問い掛けの言葉を発する。

康龍
「なるほど。ちなみに、一介殿はどの代表を支持するおつもりですかな？」

康龍のその言葉を聞いた一介は、真剣な表情をして答える。

一介
「墨山の領民たちはほぼ外河家推薦を支持しておりますが、私は違います。」

康龍
「ほほぅ、すると？」

一介
「商人推薦代表にございます。商人推薦代表はいささか強行的な政策もございますが、領民たちの生活を第一に考えられている点では良き政策かと。」

どうやら一介は商人推薦代表を支持する意向だ。
領民に焦点を当てた政策が彼の心に響いたようである。

康龍
「なるほど、領民の為を想ってにございますか…いやはや実にご立派なお考えにございますな。」

全ては領民の為を想っての事。
一介のその思想に対して康龍は主君である祐宗の姿を感じているようであった。

そして一介が続けて言う。

一介
「領民たちの繁栄無くしては、この墨山の地は栄えませぬ故の判断にございます。」

一介は墨山国のこれからの事について深く考えている様子である。
そして更に真剣な表情をし、続けて語り始める。

一介
「ですが…これから先、外河家は苦難の道を歩むかも知れません。しかし、その苦難を乗り越えた先には必ずや良き未来が待ち受けていることでしょう。」

一介は何かを悟っているかのような表情をしていた。