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第8章 将軍への道程編

06.外河家の情勢

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祐宗による外河家調査を命じられた康龍は、宗重と共に墨山城を目指していた。
その道中に「一介」と名乗る墨山の領民と偶然にも出会い、墨山城まで案内させる事となった。
一行は険しい山道を登り始めていた。

そこで一介が康龍らに対して口を開く。

一介
「私は、墨山で絵師をしております。この創天国全ての国の風景画を描き写すことが私の夢にございます。」

実は、この一介という男は戦国期において創天国全土の風景画を描くなどし、現代において当時の城下町の復元などに大きな手がかりを与えることとなった村井 一介(むらい いちすけ)であった。

・村井 一介(むらい いちすけ)
戦国期に活躍した絵師。
創天国各地を渡り歩いてはその地の城下町の風景画を描いていたという。
一介の描く絵は非常に細やかで、まるで写真のごとく鮮明な作品が多かった。
出身は不詳とされており、青年期頃に訪れた墨山の城下町の景色に魅了された事で墨山に定住する。
その後も他の土地での風景画を描くべく、墨山の地を出ては放浪の旅に出る事もしばしばあったという。

一介
「商人の者に聞くのも野暮でしょうが、あえて聞きたくなったもので。こたびはどのような用件で墨山に?」

一介は当たり前ながらも康龍たちにそう問い掛けた。
すると康龍が答える。

康龍
「私は、他国の商人が扱っていない茶器や武具など珍しい品物を扱っておりましてな。それで、この墨山の国にも商いに参ろうかと思っております。」

当然ながら康龍らは、外河家の調査の為に潜入をしている。
しかし、他の者でましてや墨山の領民にその事を知られてしまってはこの任務は失敗に終わる。

そこで康龍はとっさにこのような返答をしたのだが、中々に説得力のある内容だ。
どうやら商人の身なりをしたり言葉遣いを変えるなどしているうちに康龍自身も一人の商人になりきり始めていたようである。

一介
「ほう、それでこの墨山の地に。しかし、かような辺鄙な土地にまでも商いに参るとは…物好きにございますな。」

一介は、わざわざ墨山という他国の者が訪れる事が少ない国にあえて商売に訪れに来たと言う康龍らに対して不思議そうな表情であった。
すると康龍が続けて言葉を返す。

康龍
「珍しき品物であるからこそ、この国全ての者たちに広めたいと思いましてな。」

珍しい物であるからこそ全ての人間にそれを広めたい。
正に商人冥利に尽きる言葉である。
この短い時間に、康龍はすっかりと商人になりきっていた。

これに対して一介は、非常に感心した表情で口を開く。

一介
「それはそれは…素晴らしき考えですな。では墨山で商いをなされるのであれば、墨山の国についてお節介ながら私が少しお教えいたしましょうか?」

この一介の言葉に康龍は興奮した様子で声を上げる。

康龍
「おぉ、それは是非ともお願いしたいですな!」

何と、早速にして墨山の貴重な情報が手に入るのだ。
そう思うと康龍らの心は弾んでいた。

一介
「この墨山の地は、他の国と比べると実に珍しき国にございます。例えばですな…」

・政治体制
民衆の声を取り入れるべく、領民の中から数名の候補者を募って選挙を行うという現代においての民主主義政治に近い政策を行っていたという。

・政務団長選出選挙戦
墨山国においての政治の最高責任者である政務団長選出の選挙。
任期は一年単位の為、毎年に選挙が行われている。
主な候補団体としては「外河家推薦代表」「商人推薦代表」「農民推薦代表」の三団体からそれぞれの候補者を選出。
その団体を政党と見立てて、領民たちが投票を行う。
最も多くの投票を得た団体が当選すると、本年度はその団体による政治が行われる事となる。

一介
「このように、墨山では他の国とは違った形の政を執っているのございます。どうですかな、商いを行ううえでの参考になりましたかな?」

康龍
「ほう、なかなかに興味深き話でございますな。参考になりました。お教えいただけたことを感謝いたしますぞ。」

康龍は丁寧に頭を下げて一介に感謝の言葉を述べていた。
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